三条河原町はMOVIX京都で「チキン・リトル」

mike-cat2006-01-08



わざわざ京都? いや、昼に観られる字幕版はここくらいしかなかった。
最近、このテのアニメ作品に限らず、吹き替え版の拡大が目立つ。
もちろん、子供がターゲットとなるアニメ作品は当然とは思うのだが、
あまり子供向けとも思えない作品でも、字幕版は夕方以降のみ、がある。
たぶん、シネコンが全国的に増え、
ビデオ感覚で観る客層が拡大したためなのだろうが、
いわゆる声優のアニメ声とか、演技とかみ合わない吹き替えって、
どうにも肌に合わない、というか、映画を観てる気がしないのだ。


まあ、それはともかく「チキン・リトル」だ。
PIXARと契約更新できなかったらしいディズニーによる、初のフルCGアニメ。
トイ・ストーリー」以来、常に新鮮な驚きにあふれた映像と、
大人の鑑賞にも耐えうるストーリーを提供してきたピクサー/ディズニーだが、
そのコラボも聞きかじった限りでは、次作の「カーズ」が最後となる(はず)。
美女と野獣」「アラジン」のようなアニメのヒット作が近年ないディズニーとしては、
フルCGアニメ路線を軌道に乗せるためにも、気合いを入れた作品のはずだ。
予告を観る限りでは、ドジでトロくさいチキン・リトルと、
その息子を信じられない父親の関係がどうにも痛すぎて不安な作品。
さて、どうなることやら、と不安を抱きながら、上映に臨んだ。


チキン・リトルは小さな町に住む、ドジでトロめのニワトリくん。
「空の欠片が落ちてきた!」と、町中を大混乱に陥れた一年前の事件以来、
〝クレージー〟の称号も頂戴し、すっかり町の笑いものになり下がった。
ヒルのアビー、ブタのラント、魚のフィッシュら優しき友人たちに支えられ、
汚名返上に燃えるチキン・リトルだが、少年時代は町のヒーローだった父は、
どうしてもリトルに対して、信頼を取り戻せないでいた。
そんなある日、チキン・リトルは再び空の欠片が落ちてくるのも目撃する−


何のことはない。予告で観て、イヤな感じを覚えていた
〝息子を信頼できない父〟との話がメインだったりする。
アニメとはいえ、序盤はもう見るに耐えない場面の連続だ。
不運な出来事の数々に、嘲笑に満ちた大人の視線、同級生たちのいじめ…
究極のいじめスポーツ、ドッジボールや究極の差別スポーツ、野球の場面では、
「これが実写の映画だったらもっと…」と、寒々とした想いがよぎる。
もちろん、予想通り後半の大活躍で、名誉挽回は果たすのだが、
「何もここまで…」と、どうしてもイヤな気分を覚える。


実際、子供の世界は残酷だ。
いじめなんか日常茶飯事だし、第一いじめっ子はいじめとも思わない。
究極の弱肉強食の世界に、中途半端な同情などない。
で、大人なんてものは、結局同じ視線からは考えないから、
通り一遍の解決法を示すか、もしくは逆にいじめっ子の側に立つ。
その部分では、けっこうリアルといってもいいのかもしれない。
しかし、これはあくまでおとぎ話の世界だ。
現実のいじめなんてものが、勇気とか何とかで劇的に解決しない以上、
勇気とか何とかで劇的に解決してしまうおとぎ話の世界に、
リアルないじめを持ち込むこと、というのはだいぶ違和感が残る。
その点で、もう少し陰湿さを抑えてくれても…、と思ってしまった。


ただ、息子を信じられない父親、という視点は、意外な展開を見せる。
この映画、実はチキン・リトルの成長物語ではないのだ。
実はこのチキン・リトル、確かにドジでトロいのだが、
常に前向きな気持ちを忘れないし、繊細で友達思いでもある。
何かあったときにはきちんと勇気を持って立ち向かうし、実にたくましいのだ。
だから、映画を通じて変わるのは、チキン・リトルではない。
その周囲だ。


で、その象徴的存在となるのが、世間体を気にし、息子を信じられないダメな父親。
で、映画を通じて成長するのが、実はこの父親なのだ。
子供向けアニメ、ということを考えると確かに微妙だが、
普通の作品として考えると、父親の成長を物語の軸に置く、というのは悪くない。


見ているだけで「お前は!」と思ってしまうほど情けない父親だが、
実際に子供とともに観にきた父親の皆さんも、
多少は身につまされる思いがあったりするのではなかろうか。
もちろん、この映画のバカ親のように、
息子に面と向かって信頼の欠如を告げるようなことはなかろうが、
ちょっとしたひと言、ちょっとしたため息、ちょっとした態度が、
子供を傷つけていないか、と問われたら、そう確固たる自信はないだろう。


そのダメ親が、チキン・リトルの奮闘を目にして、大きく変わる。
(まあ、最終的には結果がモノをいうのだが…)
その物語に関しては、素直にグッとくるものがある。
もちろん、これを子供が観てどう思うかは、はなはだ疑問だが、
ストーリーとしては、ある意味シンプルで悪くないな、と思う。


作品のトーンは、ピクサー作品と比べ、楽屋落ちっぽいのが多い。
テイストとしてはどちらかというと、
シュレック」「シャーク・テイル」などのドリームワークスのノリに近い。
ディズニーならではのギャグもなかなか面白いとは思うのだが、
ディズニーが作るべきアニメか、というと微妙に疑問も残る。
たぶん興行的な部分が大きいのだろうが、ディズニーならでは、
という王道のストーリーを作って欲しいな、というのが率直なところだ。


ただ、どこの製作だ、なんだと小理屈をこねずに素直に観れば、
アニメならではのドタバタぶりも、パターンにはまりすぎず、
かといってツボは外さない、いい感じのバランスで作ってあるし、
ディスコ・ミュージックをふんだんに使ったBGMもかなりいい。
〝醜いアヒルの子〟でもあるアビーちゃんと、
チキンとの淡いラブロマンスも、なかなか好感が持てる。
陸生のため、水槽をかぶったフィッシュなど、
その他のキャラクターを眺めても、一作で終えるのが惜しいとも思う。


アニメと割り切って、過剰な期待をしなければ、素直に面白い映画だ。
ただ、いまどきの子供にしてみれば、微妙に刺激が足りないかもしれないし、
いくつかのジョークは、子供にはわからないだろう。
だが、もしかしたら製作者の本当の標的は、子ども連れの親かも知れない。
「面白かったね」とさらりと振り返る子供の横で、
ちょっと目を赤くした父親が、なんて構図も、どこかで見られるのかな、
などと、余計なことを考えながら、新京極を四条方面へ向かったのだった。