青山七恵「窓の灯」

mike-cat2005-12-29



文藝賞受賞、らしい。
斎藤美奈子による書評は
〝女の子のピーピング・トムを描いた本邦初の小説かもしれません〟とある。
ほかにも角田光代高橋源一郎田中康夫も絶賛、という感じ。
角田光代以外の人物は、別にどうでもいいといえばどうでもいいのだが…)
まあ、窃視癖のある若い女性、と聞けば、
それなりにスケベ心もむくむくとわき上がるわけで、じゃあ読んでみますか、となる。
単純…


大学を辞め、生計の手段もなく、途方に暮れていたまりもは、
何行きつけの喫茶店兼スナックのミカドに住み込みの手伝いとして拾われる。
奔放に生きる〝姉さん〟ミカドにどこか惹かれつつ、何とはなしの毎日を送るまりも。
ある日、アパートの真向かいの部屋に、若い男が越してくる。
まりもは、カーテンのすき間からのぞき込む、窓の灯りに魅せられていく。


正直、グッとくるものがない小説ではある。
大学生にしては幼い主人公、まりもが、
のぞき見と、ミカドの交友関係を通じて、〝大人の世界〟に触れていく。
しかし、問題はその〝大人の世界〟だ。
別にそんな驚くような世界が展開されるわけではない。
普通にルーズなオトコとオンナ。
魅力的な輝きを放つ部分もあるが、特別感慨を覚えるようなレベルじゃない。
でも、先に〝大学生にしては幼い〟と書いたが、
このまりも、本当に幼いので、やたらと過剰に反応する。
ミカド姉さんの奔放な男関係に傷つき、ほのかに恋心をよせる男の一挙一動に傷つく。
〝傷つきやすい私〟を振り回すのは、大目に見て高校生が限界だと思う。
人物設定を知らなければ、中学生程度、と言われても不思議ではない。
だから、どこか読んでいて乗れない部分があるのだ。


のぞき見、にしても、こちらもかなり肩透かし気味だ。
向かいの部屋のオトコの行動は、かなり平凡だし、
その見えない部分へのまりもの想像の世界も、何がどうというわけでもない。
別に普通の思春期小説であれば、それもアリかもしれないが、
〝ピーピング〟まで言われて読み始めたこちらとしては、
もう少し隠微だったり、罪深かったり、と、
もっとこころの奥底に響いてくるようなのぞき(どんなのだ?)を見せて欲しいのだ。


というわけでこの小説、テーマ、モチーフともに、浅くて軽いというのが率直な感想。
だから読んでいてかなり物足りなさを感じるのだが、
一方でその文体というか、作品の持つ雰囲気は悪くない。
さらりとした記述の中に、何か独特の響きがあったり、
どこか味わいのある表現が使われていたり、といった部分は随所にある。
文章のセンスはあるのだろうな、と思う。
もちろん、それで終わっていては小説ではないのだが、
この作家には〝何か〟があるような印象は抱かせてくれるのだ。


次の作品が出たとして、読むかどうかわからないし、
次の作品も出るかどうかわからないが、まあ機会があれば、読んでみたい。
その時、この作家の本当の価値が見えてくるのかも、しれない。
って、偉そうに書いてみた。
ま、偉そうに書いた分も含めて定価1000円が妥当な価格の気がする。