池上永一「シャングリ・ラ」

mike-cat2005-12-26



ようやく読み終わった。
やたらと多忙な時期だったこともあり、とにかく読む時間が少ない。
その上、本は2段組600ページ弱という大作とあって、
この重たい本をずっと持ち歩くハメになる。むむむ、きつかったよ。


年末恒例、本の雑誌のベスト10で2位の作品。
あのベスト10、いくら順位そのものは適当といっても、
1位になった山田詠美風味絶佳」にも匹敵すると聞けば手も伸びる。
ただ、アニメ誌「ニュータイプ」の連載とのことで、いったいどんな小説なのか、
ちょっと正体がつかみづらいまま、本を開いてみたのだった。


で、この作品、ひとことで言うと「読むアニメ」。
分類的には、SFのカテゴリーに入ると思う。
舞台は〝第二次〟関東大震災後の、近未来の東京。
再び焼け野原となった東京の大地は鬱蒼とした森林と化し、
都市は巨大なカーボンシャフトに幾層もの人工地盤を積み重ねたアトラスに移された。
地球温暖化を堰き止めるための炭素排出量が、
経済単位として取り交わされる〝炭素経済〟の世界で、
ゲリラ、政府軍、トレーダーたちが暗躍し、新世界の覇権を争う。
乱暴な言い方だが、どこかガンダム的なものが漂ってくる感じだ。


そして主人公は若きゲリラのリーダー、國子。
セーラー服に身を包み、巨大なブーメランを操る國子の悩みは〝貧乳〟だ。
〝サブキャラ〟にも強烈な連中がひしめく。
元格闘家のオカマに、ハーレーを操る美女、牛車に乗る十二単衣の少女…
それでもって、セリフ回しは大時代的でおおげさなアニメ言葉だし、
極端にカリカチュアライズされた、大人×子供の図式や、
登場人物たちの、人間離れした、超人そのものの能力、
どれをとっても、かつて見ていたアニメの世界そのものだ。
まあ、ここらへんはアニメ誌の連載なのだから、当たり前。


問題は、一般小説のカテゴリーとしてアニメファン以外にも通じる物語か、
という部分にかかってくるのだが、ここらへんはやや微妙でもある。
もちろん、ガンダムは「Zガンダム」まで観ていたし(というか、DVDボックスあるし…)、
嫌いじゃない世界なのだが、
アニメっぽいと分かっていて読んでいても、鼻白む場面が多少はあるのだ。
それはやはり過剰なまでに芝居がかったセリフ回しであるし、
意地悪い視点で判断すれば、ご都合主義と取れるストーリー展開でもある。
アニメキャラのあのでっかい目が容易に思い浮かぶ、という小説そのものの雰囲気は、
やはり好みが分かれる部分でもあるだろうと思う。


ただ、それでもこの小説の描く世界のスケールや臨場感、
そして複雑に絡み合う物語に関していうなら、
〝アニメ小説〟を理由に回避するのは、あまりにもったいない判断だと思う。
正直、とっつきやすいジャンルの小説とは言い難い。
最後の決着については、思想的にだいぶ違和感を覚えるし、
途中から、どこか物語に破綻したような部分も見受けるのだが、
それでもやっぱり、〝面白い小説〟であることには、間違いがない。


またこの作品は、もう一人の主人公となる、都市・東京をテーマにした小説でもある。
震災や空襲、そして無制限な開発で顔を失ってしまった東京について、
ちょっと考え直す意味でも、なかなか悪くない小説であると思う。
まあ、東京生まれの東京育ちとしては、ここまであしざまに書かれると、複雑ではあるが…


ようやくこれで重たい本を抱える毎日が去り、
積み重なり続けたほかの新作に取りかかれると思うと、すごい開放感を感じる。
しかし、それはそれで新しい悩みの始まりでもある。
「このミス」「週刊文春」「本の雑誌」と、読み逃していた作品をまずは検証するか、
それとも、平安寿子町山智浩の新作といくか…
いや、ホント小さいことだけど、やっぱり悩みは尽きないわけで…