千日前セントラルで「ロード・オブ・ウォー」

mike-cat2005-12-21



〝戦争の王〟と呼ばれた史上最強の武器商人を描いた、シニカルな風刺映画だ。
監督は「ガタカ」「シモーヌ」と、どこか異質を雰囲気を漂わすアンドリュー・ニコル
だから、「ナショナル・トレジャー」のニコラス・ケイジが主演でも、
映画には、やたらとインディペンデントな雰囲気がプンプンと漂う。
共演はイーサン・ホーク。あの大傑作「ガタカ」の主演俳優が脇を固め、
アンドリュー・ニコルの世界をより完璧に作り出す。


ユー・リー・オルロフ(仮名)=ケイジは、ウクライナ移民のレストランの長男。
銃撃戦など当たり前のNY・リトルオデッサでの日常の中で、ふと思う。
「あの銃が、俺の銃であっても別におかしくない」
時はまだ冷戦の時代。どこからか銃を仕入れ、言葉巧みに売り込む。
これが天職と気づいたオルロフは、南米、アフリカ、中東と次々と手を広げる。
ソ連解体で世界が混乱に陥ったとき、時代はオルロフのものとなる。
史上最強の武器商人の誕生だった。
一方でオルロフのもうひとつの生活は、
インターポールのジャック・バレンタイン=ホークによって、脅かされるようになっていた。


なるほど、これはメインストリームでの公開は無理だな、という映画だ。
実際の武器商人をモデルにした、というオルロフを
コミカルなまでにえげつなく、そしてどこか愛すべき人物のごとく、人間的に描き出す。
実際には手を下さない、というルールだけを盾に、戦争と一線を引くオルロフ。
そのモラル観は、結局大きな矛盾を抱えているのだが、
妙な説得力もあったりして、観るものに不思議な感覚を与える。
武器商人というと、あの名作マンガ「エリア88」のマッコイじいさんが思い出されるのだが、。
あのじいさんも、〝死の商人〟そのものでありながら、どこか愛すべき人物だった。
その、独特の矛盾が、映画そのものにも独特の味わいを与えている。


もちろん、いわゆる正義そのものの視点から観れば、何もかもが黒い。
結局〝死の商人〟が何を抜かす、ということにもなる。
その正義を体現する形で、インターポールのバレンタイン(銭形じゃなくて残念…)が、
オルロフを追いつめていくのだが、それも最後の最後できっちりとカタがつく。
それは、国際社会そのものが抱える大きな矛盾。
米国、英国、フランス、ロシア、中国、
世界平和を謳う国連の常任理事国が、実は最大の武器輸出国だという事実。
つくづく、国連という組織の正体がよく見えてくる、ということなのだが、
皮肉な結末も含め、きれいごとだけじゃない、シニカルな視点が印象的だ。


映画全体の雰囲気としては、飄々としたニコラス・ケイジの武器商人も面白いし、
ガタカ」「シモーヌ」などにも通じる、アンドリュー・ニコル独特の静寂なイメージが、
シニカルな題材を、よりクリアな形で浮き彫りにしていく。
正義に燃え、矛盾に苦しむイーサン・ホークもなかなかだし、
武器商人を夫に持つブリジット・モイナハンの身勝手さもこれまたいい。
オルロフの弟を演じるジャレッド・レトが、
レクイエム・フォー・ドリーム」に続いてジャンキーになってしまうのには笑ってしまったが…


メンツ的には豪華な作品なのだが、最初にも書いた通り、映画そのものはいわゆる小品。
戦争を題材にしている割に、スペクタクルとか、エンタテイメントには欠けるし、
ヒトはまあやけに簡単に殺されるあたり、
あくまで〝風刺コメディ〟と割り切らないと、気持ち的に割り切るのは難しい。
キング・コング」みたいな、これぞ映画!!的な映画を観たばかりだと、
こうした小品を面白い、と絶賛するには多少きつい部分もあるし、
こころの3本「ガタカ」と比べてしまうと、見劣りすることは否めない。
ただ、それでもどこか気になる、不思議な映画、であることは、間違いない。
この映画で植えつけられる問題意識を、
どこで発揮するかと考えると、また難しい面もあるのだが、それはまた別の問題。
映画の出来ではない部分で「むむむ…」と、複雑な想いを抱え、
劇場を出るというのも、時には悪くないな、と考えてみたりしたのだった。