エドウィン・H.コルバート「恐竜の発見 ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース」

mike-cat2005-11-06



原題は〝Men and Dinosaurs〟直訳すれば、男たちと恐竜。
〝6400万年前に絶滅した恐竜たちの姿を甦らせた男たちの物語〟だ。
1822年、イギリスのマンテル夫妻が見つけた、先史時代の歯の化石。
トカゲのような爬虫類と思われるその化石こそ、
世界で初めて発見された、恐竜の化石だった−。
イグアノドン、メガロドン、そしてさまざまな恐竜たち。
恐竜の発掘にまつわる、男たちのドラマを描いたノンフィクションだ。


恐竜といわれたら、黙ってはいられない。
幼稚園のころから、学研の「恐竜のひみつ」を読みふけったクチだ。
その後も、博物館には数限りなく足を運び、
恐竜とつく本は読みあさった(もちろん、絵がたくさんあるやつだが…)
ディアゴスティーニの「恐竜ザウルス」はさすがに買わなかったが、
それでも思わず書店店頭で、手に取って見るぐらいはしてしまった。
もちろん、クライトンの「ジュラシック・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)」「ジュラシック・パーク〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)」には大興奮。
大人になった現在となっても、やはり〝恐竜〟の響きに心は浮き立つ。
1968年に原版が刊行され、日本では最初1993年4月に紹介された。
タイミングを考えると、いかにも「ジュラシック・パーク」公開に向けた刊行という感じだ。
あの頃、書店で見かけた記憶がないのは、ただ単に僕の注意不足だろう。


というわけで、失われた12年を取り返すべく、さっそく本を開く。
むかし「恐竜のひみつ」でも読んだ、イグアノドンの発見はやはりドラマチックだ。
もちろん〝初めて発見された〟というのは、微妙な表現ではある。
それまでも発見はされているはずだ。
ものの本によれば、竜の化石、などとして薬にもされていたとか。
(もちろん、効果のほどはだいぶ怪しいのだろうが…)
ただ、古生代に存在した大形の爬虫類、として認識されたのが初めて、ということ。
恐竜学、が生まれるきっかけとなったエポックメイキングな歴史的事件。
アカデミックな意味での〝初めての発見〟がなされた、ということだ。
まあ、そういうことをグタグタ言いつつも、そのドラマにまたハラハラできるのだ。


ウィリアム・バックランドによるメガロサウルスの発見、
ギデオン・マンテルによるイグアノドンの発見、
そしてリチャード・オーエンによって
おそろしい(Deinos)トカゲ(Sauros)=ディノサウリア(Dinosauria)と名付けられる。
人類ミーツ恐竜のドラマが、生き生きと描き出される。
もうここらへんまでは当然、一気読みだ。


ここから、どんな恐竜がどんなところで発見されるのか、
と期待は膨らむばかりなのだが、ここからはどうも、微妙な展開となる。
どういうことかというと、やはりこの本は、
原題が示す通り、「恐竜のひみつ」ではなく、「男たちと恐竜」なのである。
恐竜を追う男たち、の人物的背景がかなり克明に記される。
もちろん、そのドラマが退屈と言うことではないのだが、
やはりこちらの興味は恐竜、という部分もあって、どこか食い違う。
文体がエンタテイメントのノンフィクションではなく、
学術書っぽい部分も手伝って、あまり読みやすくない、というのが正直なところだ。


もちろん、書かれていることが興味深いのは間違いないのだ。
ただ、硬質な文章で記される恐竜研究の歴史だけでは、
もっともっと「恐竜そのものを読みたい」派には、どうももの足りない。
まあ、勝手に恐竜だらけを期待するのが悪いのだが…


一応、余談にはなるのだが、気になる点もうひとつ。
男たち、という部分は、巻末エッセイによると微妙な面もあるらしい。
進化生物学者長谷川眞理子氏が触れている通り、
イチチオサウルスを発見し、恐竜学の発展に貢献した女性、
メアリ・アニングがなぜか挙げられていないのは、大きな手落ちだとか。
旧来の学者の世界の女性差別の表れなのだろうけど、
こういう閉鎖的な部分に気づいてしまうと、偉業もどこか色褪せるのも確かだな、と。
ま、あくまで余談ではあるのだけれど、
やはりこういう世界は〝男の世界〟なんだな、とあらためて実感したのだった。