桜庭一樹「ブルースカイ (ハヤカワ文庫 JA)」

mike-cat2005-10-23



〝次世代型作家のリアル・フィクション
 あたしは死んだ。この空の下で
 少女という概念をめぐる3つの箱庭の物語〟
つい先日読んだ「少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)」の気になる作家、
桜庭一樹による何ともいえない味わいの、SFファンタジー(分類的には微妙だが)。


1627年、魔女狩りの嵐が吹き荒れるドイツ・レンス、
2022年、もう〝少女〟がいない時代のシンガポール・シティ、
2007年、浜崎あゆみの歌声が響く鹿児島、
少女〝アオイソラ〟でリンクする3つの世界、そして3つの青空…
「世界と繋がっていたい」。少女の想いを乗せて、すべてが動きだす。
そして、世界のすべてを見渡す〝システム〟とは…


むむむ…
こうして書くと、かなりあらすじ的なものを書くのが難しい。
何だか理解しているんだか、理解していないんだか、
微妙な感想を覚えていることが、あらためて実感させられる。
というか、つくづく自分が、
ファンタジーもしくはSFの〝いい読者〟でないことを思い知らされる。
ひしひしと伝わってくるものがあるのだが、整理して理解できない。
どこかあっさりとした描写に、読み終えてもの足りない気持ちが湧いて出る。
おそらく、そのあっさりさゆえに感じられる余韻があるはずなのに、
むしろ、もっともっとねっちょりと描写して欲しい感覚が残る。


その理由はわかるのだ。
〝少女〟という概念と、〝システム〟という概念、そして三つの世界の関わりが、
とても淡泊に、さりげなく、そして繊細に描かれた小説だ。
だから、サラッと読んでも、一瞬つながりがうまく整理できない。
もっと、ガッツリ書き込めば、理解しやすいとは思うのだが、それでは、粋じゃない。
ある意味、二律背反的な要素を持った小説なんだと思う。
だから、けっこう間口が狭い。
あまり文学的素養のない僕なんかが読むと、
何かすごく伝わってくるのに、そのつたわってくるものの正体がつかめない。


男女の性役割が逆転した未来のシンガポールの、不思議な浮遊感、
魔女狩りに怯える中世ドイツの、どこか陰惨な空気、
近未来(まだ、あゆが健在ではあるが…)の鹿児島に沈殿するだるさ、
どれも不思議な雰囲気を醸し出していて、グッと引き込まれる。
だけど、かんじんのストーリーは、よくわからないまま終わってしまう。
まあ、それでも別に困るわけでもないのが、この小説の味わいでもある。
デーヴィッド・リンチなどとはまたちょっと違うが、
読み終わって、観終わって「わからん…」となっても、それがどこか心地いい。
とはいえ、そのうちもう一回読んで、もうちょっとは理解しようとも思う。
そのぐらい、気になる作品でもあった。
というわけで、混乱して書いてるから、混乱したまま、レビューは終わるのだった。