平安寿子「Bランクの恋人」

mike-cat2005-10-16



マイ・フェイバリットのひとり、平安寿子の最新作。
「月刊J−novel」掲載作などをまとめた短編集だ。
オビは〝愛にもいろいろありまして…〟
どこかズレた関係に悩む、オトコとオンナの7つの物語だ。


表題作の「Bランクの恋人」は、モテ男を自認する七塚次郎の物語。
「モテるかモテないか。それは人生の大問題だ」
こう言い放つ次郎だが
〝モテるための三種の神器−顔、金、権力−どれも不自由してる〟
と、自認するほどの、平凡な男に過ぎない。
じゃ、モテる秘訣は、というと、マメさ、そしてターゲットの正確さだ。
狙いは78点レベル。
「わたしはもっとモテて然るべきだ」と、不満を抱くオンナの心の隙に忍び込む。


そんな、こすっからい次郎の、
一人語りで進む物語だが、これがまたコミカルなのだ。
オンナをいいように扱っているつもりの次郎が、実はいいようにもてあそばれている。
悪くいえばありきたりの構図、でもあるのだが、
これが平安寿子の手にかかると、絶妙な味わいを醸し出す。
笑えるけど、どこか切ない、男の情けなさ、みたいなのが伝わってくる。


「アイラブユーならお任せを」も、
どんな時でも「愛してる」を口癖に、人生を渡ってきた54歳、信友の転機を描く。
カスタム自転車屋の弟子にして従業員、杉生くんの恋路を手助け、と思ったら、
自分がその女のコに惹かれてしまい…、というやつ。
あまりにしっかり者過ぎる奥さんとの関係が冷えつつある中、信友はどうするのか…
これもまた、信友の勘違い、というやつが、何とも笑わせてくれるのだ。


主人公は男ばかりではない。
サイド・バイ・サイド」では、思いを寄せるオトコに、
その〝彼女〟の世話を頼まれてしまった42歳、美由紀の悪戦苦闘が、
「はずれっ子コレクター」では、
とんでもないダメオトコ食いに精を出す女性教師、澄香さんの突き抜けっぷりが、
平安寿子一流の、軽妙な文体で描かれていく。


「ハッピーな遺伝子」では、
チャーリー・ワッツに憧れ続ける父親とともに、恋に悩むルミの姿が、
「利息つきの愛」では、リスクのある恋に踏み込めない美和と、
〝愛とは与えるもの〟が信条のゲイ、くうちゃんがともに奮闘する姿が、
これまた何ともいえないペーソスを伴いつつ、描き出される。


「サンクス・フォー・ザ・メモリー」はやや毛色が違うかもしれない。
13歳上の夫との結婚についてきたのは、要介護の父と、政治家で威張り屋の小姑。
夫はロクに頼りにならない中、22歳の亜希の気持ちが踏みにじられていく。
現実的な介護の悲惨さを前面に押し出したものではなく、
あくまで、おとぎ話の世界として描かれた、家庭内の不和。
その中で、一筋の光明を見つけていく亜希の姿が、どこかまぶしい。
救いのない状況と、夫の情けなさには憤りを覚えるのだが、
まあ、あくまでおとぎ話、と割り切れば、その温かい感触に、グッとくる。


平安寿子、としては平均的なレベルの作品、ではあるけど、
やはりファンなら文句なしで楽しめる作品だと思う。
大傑作「グッドラックららばい」みたいな、濃ゆい物語はないけど、
その分、さらりと気分をほぐしてくれる、清涼感みたいなものはある。
ちなみに「グッドラックららばい」は文庫も出たので、もっともっと読まれて欲しい傑作。

グッドラックららばい (講談社文庫)

グッドラックららばい (講談社文庫)

何だかまたも、平安寿子広報・普及委員会みたいになってきたので、このへんで…