グレッグ・ルッカ「奪回者 (講談社文庫)」

mike-cat2005-10-08



守護者 (講談社文庫)」に続く、ボディガード・アティカスのシリーズ第2弾。
どうも微妙、といいつつ、文句もたれつつ、
ここ最近で3冊目になるのだが、いまだ〝微妙〟感がつきまとう。
今回の物語は「守護者」のそのまんま続き。
前回の事件で親友ルービンを失ったアティカスは、SMクラブの用心棒に身を落とす。
そこで出会ったのは、かつて陸軍時代に警護したワイアット大佐の娘エリカ。
かつてアティカスは、ワイアットの妻、ダイアナとの不倫がもとで陸軍を追われていた。
SMクラブでのゴタゴタをワイアット大佐からエリカの警護を頼まれる。
エリカをつけ狙うのは、英国陸軍特殊空挺部隊、SAS。
果てして、アティカスはエリカを守り抜くことができるのか−


このシリーズ、ボディガードという仕事に対する、発想の原点は常に否定的だ。
解説で「守護者」の一文が引用されている。
「あなたを完璧に守ることはできない。だれにもできない。
 だれかがあなたを本気で殺したいと願い、そいつらに忍耐心と半分の脳味噌があり、
 多少の金があったなら、その仕事をやりとげるだろう。
 十年かかるかもしれないが、やりとげるはずだ」
つまり、完璧なボディガードは存在しないし、完璧なセキュリティはありえない。
その気になれば、爆弾でも、機関銃でも、相手は何でもできるのだ。
相手の数倍の規模の人員と装備を揃えたとしても、
相手が〝その気〟になれば、いつかはその目的はかなうのだ。


ましてや、今回の相手はSASだ。
あの浦沢直樹の名作「MASTERキートン」でも有名な、あの特殊部隊。
たとえシークレットサービスをもってしても、完璧なボディガードは不可能だ。
じゃあ、それをどう守り抜くか、というのがドラマのミソになるのだが、
そこらへんがどうにもこの小説は、微妙なラインを漂い続けるのだ。
つけ狙う側にも、ある目的があるから、そこまでえげつないことはしない。
だから、アティカスたちにミスがあっても、時にはピンチを切り抜ける。
その切り抜け方を、〝ご都合主義〟と思ったらもうつまらなくなるし、
かといって、ギリギリのドラマ、と楽しめるほどの精度もないので、どうしてもノレない。


人間ドラマに目を移すと、
親友ルービンを失った喪失感と闘うアティカスと、ルービンの恋人ナタリー、
スピンオフ「耽溺者 (講談社文庫)」で活躍する恋人ブリジットとのロマンス、
エリカとの信頼回復、ダイアナとのロマンスの残り火、ワイアット大佐との因縁…
と、盛りだくさんのドラマが展開されていくのだが、
そのひとつひとつが、微妙にフォーカスされきらずに話が進んでいく。
だから、何となく気持ちが盛り上がらないまま、ストーリーが展開していくのは、前作同様だ。
気づくと、ドンパチが始まり、うやむやのままに事態が変化していく。
作者とすれば、矛盾や葛藤を抱えながら事態に立ち向かっていく、
という解釈で書いているのだろうが、読んでいるこちらは振り回されっぱなし。
掘り下げて欲しいドラマは、簡単に流されてしまっていく。


「守護者」と「奪回者」をまとめて読んでしまえば、
そういったドラマの中途半端さも、まあある程度まとまりを帯びてくる
だが、そのドラマとて、圧倒的なカタルシスをもたらすわけでもないので、
そのドラマを味わうためためだけに、一気読みしても、満足感も得られないはずだ。
2冊を読み終えても、こころに残るのは、どこかもの足りない、という不足感なのだ。
前作同様、おもしろくない、ということはないし、読みにくいわけでもない。
しかし、読んでいてドキドキとかワクワクすることのないまま、淡々と読書は進む。
読み終えて、思うのも、ただひと言「ああ、終わったな」というくらい。
特別な感慨もないまま、話は〝次〟への含みだけを持たせ、スパっと終わる。


3冊目の「暗殺者 (講談社文庫)」が最高傑作だという。
もう買ってしまっているので、いつかは読むと思うのだが、どうも食指が動かない。
こんどこそ、本当に面白いのか、知りたい気持ちもあるのだが、
また今回同様の物足りなさを感じるのも、あまりいい気持ちがしないはずだ。

暗殺者 (講談社文庫)

暗殺者 (講談社文庫)

はてして、どうするべきなのか。まったく、困ったシリーズに出会ってしまった。