道頓堀は松竹角座で「シン・シティ」

mike-cat2005-10-07



あまた映画化されるアメコミの中でも、独特の存在感を示す、
フランク・ミラー原作のモノトーン+パートカラーのアクション・ノワールだ。
その男くささもかなりのものだが、いわゆるカッコよさでは群を抜く。
冒頭のシーンだけで、もうガツンとやられる。
街の灯を見下ろすビルからの眺望、そしてモノトーンの中にうごめく赤いドレスの女。
そして、スクリーンにひときわ赤く、タイトルが浮かび上がる。
〝SIN CITY〟。もうこれだけで、作品の成功が約束されたようなものだ。
DGA(全米監督組合?でいいかな)脱退までして、原作者フランク・ミラーをリスぺクトした、
ロバート・ロドリゲス監督の徹底的なこだわりが、作品の随所に散りばめられている。


舞台は罪の街=シン・シティ
物語は、4人の男による、一人称の語りで描かれていく。
夜の街で標的を探す伊達男、ザ・マン=ジョシュ・ハートネット
(「シャンプー台のむこうに」「ブラックホーク・ダウン」)
心臓病を抱えながら、悪に挑む老刑事ハーティガン=ブルース・ウィリス
(「ダイハード」「シックス・センス」)
醜い容貌の不死身の男、マーヴ=ミッキー・ローク
(「ナインハーフ」「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」)
惚れた女のために無謀な戦いに挑むタフガイ、ドワイト=クライヴ・オーウェン
(「クローサー」「キング・アーサー」)
スペシャルゲスト監督のクエンティン・タランティーノによる、
スターピースパルプ・フィクション」よろしく時間軸が入り乱れる構成で、
シン・シティで生き抜く男たち、女たちに姿が、スタイリッシュに描かれる。


共演陣も、これぞ豪華キャスト、というメンバーが揃った。
ハーティガンに窮地を救われるナンシーにジェシカ・アルバ
(「ファンタスティック・フォー」「ダーク・エンジェル」シリーズ)。
ドワイトを窮地に追い込む悪徳刑事ジャッキー・ボーイにベニチオ・デル・トロ
(「トラフィック」「21グラム」「ラスベガスをやっつけろ」)
連続異常殺人でシン・シティを恐怖に陥れるケビンにイライジャ・ウッド
(「ロード・オブ・ザ・リング」三部作「パラサイト」)
ジャッキー・ボーイとの腐れ縁に苦しむメイド、シェリーにブリタニー・マーフィー。
(「8 mile」「17歳のカルテ」)
ほかにもマイケル・マドセンルトガー・ハウアーパワーズ・ブース、
マイケル・クラーク・ダンカンカーラ・グギーノ、デヴォン・アオキ、
ロザリオ・ドーソンジェイミー・キング、アレクシス・ブルーデル…
これだけのスターを、物語のバランスを崩すことなく、使い切るそのバランス感覚も絶妙だ。
単なる〝スター勢ぞろい映画〟とは、まったく違う、
本当の意味での豪華布陣での映画作りがなされている、という印象だ。


映画は一場面一場面が、もう眩しいばかりの輝きを放っている。
ナンシーを救うべく、単身敵地に乗り込むハーティガンの壮絶な戦いぶり。
一夜の愛を与えてくれたゴールディのため、すべてを投げ打つマーヴの不屈の闘志。
シン・シティのイコンとして、その魅力を存分に振りまくナンシーの艶めかしさ。
仲間を陥れてでも、たくましく生き抜こうとするベッキーのしたたかさ。
異様な不気味さを醸し出す殺人鬼ケビンのたたずまい…
どのキャラクターを取り上げても、スピンオフが製作できるだけのキャラクターと、
匂い立つような雰囲気、そして存在感が際立っている。
3作目まで続編製作が決まっている、というのもつくづくうなずける。


何より印象的だったのは、ジェシカ・アルバ演じるナンシーだ。
ファンタスティック・フォー」のえっちなインビジブル・ウーマンもたまらなかったが、
この映画でのアルバには、確固たるスタイルとともに、
観る者の視線をとらえて逃さない、抗いがたい魅力が発散されている。
ファンならば、酒場でのダンスシーンだけでももう必見、といっていい。
それくらい、この映画でのアルバは、とんでもない輝きを放っている。


笑ってしまったのは、ベニチオ・デル・トロだ。
あの名優が、ロクデナシを喜々として演じ、
あっというまに〝あんな姿〟に成り果て、それもかなり雑に扱われる。
まあ、過去の作品をひもとくと、もともと汚い役が好きなヒトではあるけど、
作品にほれ込んでないと、ここまでとんでもない役は引き受けないはずだ。
このジャッキー・ボーイの物語も、続編で語られればいいのだけど、無理だろうな…


クライム・アクションということで、バイオレンス描写はかなりきわどい。
しかし、時にモノトーンの白、時にパートカラーの赤で彩られる血の色は、
現実の世界のバイオレンスと違い、スタイリッシュそのものに描かれる。
コミックでもない、アニメでもない、実写でもない、
この作品にしか出せない独特の世界の中で、描かれるそのバイオレンスは、美しくさえある。
それがロドリゲス作品独特のポップな感覚と相まって、
まさに極上のエンタテイメントに昇華されているのだ。
とはいえ、この作品の魅力は、そういった激しい描写だけじゃない。
ハーティガンの、マーヴの、ドワイトの、
ハードボイルドで、不器用な生き方も観ている者の胸を打つ。
その熱い男のドラマは、だいぶクサいのではあるけれど、やはりグッとくる。


そんなこんなで、男度数が異常に高い作品ではあるのだが、とにかく熱いのである。
あのシーンもすごいし、このシーンもカッコよかった、
なんて思い返すともうまたも血が熱くたぎって、どうにもならなくなってくるのだ。
ついつい興奮しまくって、うまく語れないのがつくづく悔しいのだが…。
ひさしぶりにもう一回劇場で観たい、と強く思った映画でもある。
なるべく真っ白な状態のままで観た今回と違い、
さまざまな情報を詰め込んで観る二度目は、また違った感慨があるはず。
次もシビれてしまうことだけは、間違いのないところではあるのだが…