道頓堀は松竹角座で「シン・シティ」
あまた映画化されるアメコミの中でも、独特の存在感を示す、
フランク・ミラー原作のモノトーン+パートカラーのアクション・ノワールだ。
その男くささもかなりのものだが、いわゆるカッコよさでは群を抜く。
冒頭のシーンだけで、もうガツンとやられる。
街の灯を見下ろすビルからの眺望、そしてモノトーンの中にうごめく赤いドレスの女。
そして、スクリーンにひときわ赤く、タイトルが浮かび上がる。
〝SIN CITY〟。もうこれだけで、作品の成功が約束されたようなものだ。
DGA(全米監督組合?でいいかな)脱退までして、原作者フランク・ミラーをリスぺクトした、
ロバート・ロドリゲス監督の徹底的なこだわりが、作品の随所に散りばめられている。
舞台は罪の街=シン・シティ。
物語は、4人の男による、一人称の語りで描かれていく。
夜の街で標的を探す伊達男、ザ・マン=ジョシュ・ハートネット。
(「シャンプー台のむこうに」「ブラックホーク・ダウン」)
心臓病を抱えながら、悪に挑む老刑事ハーティガン=ブルース・ウィリス。
(「ダイハード」「シックス・センス」)
醜い容貌の不死身の男、マーヴ=ミッキー・ローク。
(「ナインハーフ」「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」)
惚れた女のために無謀な戦いに挑むタフガイ、ドワイト=クライヴ・オーウェン。
(「クローサー」「キング・アーサー」)
スペシャルゲスト監督のクエンティン・タランティーノによる、
マスターピース「パルプ・フィクション」よろしく時間軸が入り乱れる構成で、
シン・シティで生き抜く男たち、女たちに姿が、スタイリッシュに描かれる。
共演陣も、これぞ豪華キャスト、というメンバーが揃った。
ハーティガンに窮地を救われるナンシーにジェシカ・アルバ。
(「ファンタスティック・フォー」「ダーク・エンジェル」シリーズ)。
ドワイトを窮地に追い込む悪徳刑事ジャッキー・ボーイにベニチオ・デル・トロ。
(「トラフィック」「21グラム」「ラスベガスをやっつけろ」)
連続異常殺人でシン・シティを恐怖に陥れるケビンにイライジャ・ウッド。
(「ロード・オブ・ザ・リング」三部作「パラサイト」)
ジャッキー・ボーイとの腐れ縁に苦しむメイド、シェリーにブリタニー・マーフィー。
(「8 mile」「17歳のカルテ」)
ほかにもマイケル・マドセン、ルトガー・ハウアー、パワーズ・ブース、
マイケル・クラーク・ダンカン、カーラ・グギーノ、デヴォン・アオキ、
ロザリオ・ドーソン、ジェイミー・キング、アレクシス・ブルーデル…
これだけのスターを、物語のバランスを崩すことなく、使い切るそのバランス感覚も絶妙だ。
単なる〝スター勢ぞろい映画〟とは、まったく違う、
本当の意味での豪華布陣での映画作りがなされている、という印象だ。
映画は一場面一場面が、もう眩しいばかりの輝きを放っている。
ナンシーを救うべく、単身敵地に乗り込むハーティガンの壮絶な戦いぶり。
一夜の愛を与えてくれたゴールディのため、すべてを投げ打つマーヴの不屈の闘志。
シン・シティのイコンとして、その魅力を存分に振りまくナンシーの艶めかしさ。
仲間を陥れてでも、たくましく生き抜こうとするベッキーのしたたかさ。
異様な不気味さを醸し出す殺人鬼ケビンのたたずまい…
どのキャラクターを取り上げても、スピンオフが製作できるだけのキャラクターと、
匂い立つような雰囲気、そして存在感が際立っている。
3作目まで続編製作が決まっている、というのもつくづくうなずける。
何より印象的だったのは、ジェシカ・アルバ演じるナンシーだ。
「ファンタスティック・フォー」のえっちなインビジブル・ウーマンもたまらなかったが、
この映画でのアルバには、確固たるスタイルとともに、
観る者の視線をとらえて逃さない、抗いがたい魅力が発散されている。
ファンならば、酒場でのダンスシーンだけでももう必見、といっていい。
それくらい、この映画でのアルバは、とんでもない輝きを放っている。
笑ってしまったのは、ベニチオ・デル・トロだ。
あの名優が、ロクデナシを喜々として演じ、
あっというまに〝あんな姿〟に成り果て、それもかなり雑に扱われる。
まあ、過去の作品をひもとくと、もともと汚い役が好きなヒトではあるけど、
作品にほれ込んでないと、ここまでとんでもない役は引き受けないはずだ。
このジャッキー・ボーイの物語も、続編で語られればいいのだけど、無理だろうな…
クライム・アクションということで、バイオレンス描写はかなりきわどい。
しかし、時にモノトーンの白、時にパートカラーの赤で彩られる血の色は、
現実の世界のバイオレンスと違い、スタイリッシュそのものに描かれる。
コミックでもない、アニメでもない、実写でもない、
この作品にしか出せない独特の世界の中で、描かれるそのバイオレンスは、美しくさえある。
それがロドリゲス作品独特のポップな感覚と相まって、
まさに極上のエンタテイメントに昇華されているのだ。
とはいえ、この作品の魅力は、そういった激しい描写だけじゃない。
ハーティガンの、マーヴの、ドワイトの、
ハードボイルドで、不器用な生き方も観ている者の胸を打つ。
その熱い男のドラマは、だいぶクサいのではあるけれど、やはりグッとくる。
そんなこんなで、男度数が異常に高い作品ではあるのだが、とにかく熱いのである。
あのシーンもすごいし、このシーンもカッコよかった、
なんて思い返すともうまたも血が熱くたぎって、どうにもならなくなってくるのだ。
ついつい興奮しまくって、うまく語れないのがつくづく悔しいのだが…。
ひさしぶりにもう一回劇場で観たい、と強く思った映画でもある。
なるべく真っ白な状態のままで観た今回と違い、
さまざまな情報を詰め込んで観る二度目は、また違った感慨があるはず。
次もシビれてしまうことだけは、間違いのないところではあるのだが…