ダグラス・アダムス「銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)」

mike-cat2005-09-14



河出文庫の新訳版。映画の興奮も醒めやらぬ中、さっそく読んでみる。
前回読んだのは新潮文庫版が出た当時だから、ほぼふた昔前。
はっきりいって、ほとんど覚えていない。
だが、当時は微妙に難解だった覚えもあったりする。
今回は映画を観たばっかりだし(さすがに2、3日くらいはちゃんと覚えてる)、
映画版との違いを見比べる楽しみもあったりして、これまたうれしい。


お話は当たり前だが、映画と同じ。
銀河バイパス建設のため、〝立ち退き〟により地球は消滅。
銀河系最大のベストセラー「銀河ヒッチハイクガイド」の編集者フォードに救われた、
英国一平凡な男、アーサー・デントは、なすがままに宇宙の放浪に旅立つ。
いいかげんで無責任な銀河系大統領、ゼイフォードに拾われたアーサーは、
ひょんなきっかけから、地球の秘密に迫ることとなる―


映画と違うのは、当然といえば当然のビジュアル面、
そして細かいシーンの演出やセリフ回し、そして順序など。
あとは、ジョン・マルコヴィッチが演じた、
ハーマ・カヴーラが映画版オリジナルだということぐらい。
映画版の脚本も、ダグラス・アダムスが手がけたこともあり、
その基本的なテイストが受け継がれた、ということが原作を読み直して、よくわかった。


しかし、むかしむかしに読んだときも面白かったけど、
いま読んでみると、加えて「あの時代によくここまで」という凄みをあらためて感じる。
特に、電子ブック&辞書さながらのヒッチハイクガイドの発想は、つくづく凄いと思う。
その上、そんな凄いガイドなのに、
表紙には「DON’T PANIC」とデカデカと書くそのセンス。
そして、その本の紹介がまた笑わせてくれる。
〝人気という点では「天上住宅維持管理法選集」を超え、
 販売部数では「無重力でやるべきその他五十三のこと」をしのぎ、
 多くの論争を呼んだという点では、
 ウーロン・コルフィドの哲学三部作にして大ベストセラー
 「神はどこで間違ったか」
 「神の最大の誤りについてもう少し」
 「そもそもこの神ってやつはどういうやつだ」にもまさるほどだった。〟
銀河系には名高い「ギャラクティカ大百科」もあったという。
でも、その大百科より、ヒッチハイクガイドは2つの点で優れていたという。
〝第一に値段がちょっとばかり安い。
 第二に、大きな読みやすい文字で「パニクるな」とカバーに書いてある〟
いや、あんまり大した差異とはいえないような気が…


そして、この壮大なバカ話を彩る、個性的なキャラクターたちもたまらない。
信じ難い事態に、奇跡そのものともいえる邂逅、
そして伝説の惑星マグラシアの話題が飛び交う中で、
主人公アーサーは大事なことを思い出す。
「ところで、この宇宙船にお茶はある?」
いかにも英国人というか、何というか…。
しかし、考えてみれば、ある意味この超然とした態度は凄かったりもする。


とても優秀な頭脳を誇るロボット、マーヴィンも一癖も二癖もあるやつだ。
用事を頼もうと思って、呼んでみればまずこう切り出す。
「先にお断りしておきますが、わたしはとても気が滅入っています」。
そう、優秀すぎる頭脳が災いして、つねに憂鬱を抱えたロボットなのだ。
アーサーいわく「あれは電子ふてくされ機」。なるほど、言い得て妙だ。
しかし、その憂鬱気質が、役に立ってしまう時がくるから、また面白い。
ほかにも官僚的で無能、そして宇宙で屈指のヘボ詩人一族でもあるヴォゴン星人、
究極の問いに対して、とんでもない答えをはじき出す(ホントにとんでもない)、
宇宙最高のコンピューター、ディープ・ソートなどなど、
ヘンな奴ら勢ぞろいなのだから、
この妙なテイストの小説が、SF史に燦然と輝いている理由もわかる気がする。


映画に引き続き、まさに満喫、の一冊。
新訳だけあって、読みやすいのもなかなか嬉しいところだ。
昔、角川の映画&文庫のメディアミックス広告で
「読んでから見るか、見てから読むか」というやつがあったが、あれを思い出した。
僕は見てから読んでしまったが、読んでから見るのもまた一興かも。
少なくとも、読む&観るで二度楽しんで損はない、ということは間違いない。
続編「宇宙の果てのレストラン」も、当然必読リスト入り。
さあ、いつ読もうかな、と心浮き立たせて、本を閉じたのだった。

宇宙の果てのレストラン (河出文庫)

宇宙の果てのレストラン (河出文庫)