おくさま誕生日ディナーで、シェ・ワダ高麗橋本店。

メインダイニング

http://www.c-chezwada.com/kouraibashi.html


なんば高島屋の「シェ・ワダ・ブティック」は、
これまでも何度か行ったけど、本店はもちろん初めて。
以前は心斎橋にあったとか。
現在の高麗橋に移転して、3年ほどになるらしい。
築100年近いという、れんが造りの洋館は、雰囲気もあってなかなかナイス。
けっこうワクワクしながら、玄関をくぐる。


こちらの和田さん家(仏訳=シェ・ワダ)、個性的な料理で知られているという。
中に入って、いきなりその片鱗を目にする。
おねえさんの笑顔とともに出迎えてくれたのは、いぬ…
白くてどでかい、グレート・ピレニーズが横たわっている。
そして、その横にはにこやかなオジサン。
もしや、と思ってよく見てみると、やはりシェフの和田氏だったりする。
後ろ姿を見ると、何とデザイン・デニム。
どこのブランドなんだろうか、むむむ、何だか面白いヒトらしい。


いや、歓迎の意図はまことにうれしいのだけど、なぜここに?
もう、確か客はそこそこ入って、食事も始めているはずだけど…
確かにオーナーシェフって、映画でいえばプロデューサー兼ディレクター。
だから、必ずしも厨房にこもる必要もないのだが、このヒトは何か違う。
満面の笑顔を見ていると、どうも、かなりサービス精神が旺盛らしい。
犬といい、このオーナーシェフのお出迎えといい、
どうも、料理だけじゃなくて、お店そのものが個性的というか、変わってるらしい。


とはいえ、違和感、というのとはちょいと違う。
友人の家に出迎えられた、みたいな親しさもどこか感じる。
好みは分かれるところかも知れないけど、これはこれで悪くない。
ウェイティングルーム、メインダイニングとも雰囲気は依然いい感じ。
くつろいだ気分で、食事に臨むことができた。


食前酒は、さほど力を入れていないのだろうか。
お誕生日なので、シャンパンカクテルを、と頼むと、
フレッシュフルーツのは準備がない、との回答が帰ってくる。
あら、残念…
ミモザなら」ということなので、ミモザを注文することにする。
奥さまあまりアルコール強くないので「ひとつはお酒弱めで」とお願いする。
飲んでみると、やけに軽い。
おかしいな、と思って奥さまの方を見ると、口をややすぼめてる。
お酒の軽い方を、僕の方に持ってきたらしい。


ここらへんで気付くのだが、どうもこの店、サービススタッフが弱い。
料理については後述するけど、その料理に比べ、明らかに見劣りしている。
たとえば、カクテルなんて、
「ありません」と即答するより、何か対策を練るのが当たり前だし、
ましてや強弱2種類のカクテルを、間違えてサーブするのはもってのほか。
料理の紹介も、あまり詳しく知らないのか、どこかおざなり。
豆類があったら、除けてください、と最初に言ったにもかかわらず、
堂々と黒豆の料理も出てきてしまったし、
座席を立つ時のイスなんかも、
大きな音を立てて引いてみたり、まったく気付かないでいてみたり。
また、食後のお茶は、常識では考えられない渋さで出てきたあたり、
やはりサービススタッフの教育が、かなり不足している感は否めない。
グランメゾン級のサービスを、というつもりもないのだが、
一時が万事、気が利かないというか、あまり基本ができていない。
大阪ではすでに名声を博しているレストランとは思うが、
ここらへんを改善していかないと、悪い意味でのローカル店と見られてもしかたない。


とまあ、サービス面は厳しく書いたが、そうしたスタッフのユルさを、
ある意味微笑ましさまで昇華させているのが、和田シェフのキャラクターかもしれない。
とにかくこの人、落ち着きがないというか、くるくるよく動いている。
時々気まぐれに料理の紹介に来てみたり、
連れのいる女性の肩に気軽に手をかけてみたり、
これまた気まぐれにデクパージュ(客の目の前での取り分け)をしてみたり。
シェフの仕事は本来それじゃないだろ、感はあるのだが、
クマのような風体で、ふらふらとさまよい歩くその姿には、どこか憎めない味がある。
ちなみにデザート後、ちょいと化粧室に出向いた奥さまの目撃情報によると、
エントランスで犬とシェフがだらだらとお休みしていたらしい。
営業時間中に、客の前でだらけるその根性。
もう、逆に笑ってしまうしかないし、
それがシンペイ・ワダなんだ、と納得してあげるのもひとつのテかも知れない。


で、料理だ。
頼んだのは〝ムニュ・デギュスタシオン〟。
シェフの味が、オールスターで楽しめる趣向は、やはりうれしい。
                         カエルのたこ焼き
               冬瓜とホタテ貝柱のコンソメ・胡椒のアルコール添え
                      炭焼き鱧のコンソメゼリー寄せ
                蟹玉のスクランブルエッグ風・サマートリュフ添え
               メロンとオレンジのソルベ・ハーブとメロンのムース添え
                      フォアグラとミミガーのテリーヌ
               フォアグラのグリエ・バルサミコソース・イチジク添え
                 鰻のパエリア・炭焼きショウガの香り瓶詰め
             ニンジンとホウレンソウのゼリーカクテル・サワークリーム添え
                  鰆のポワレ・トマトとアボカドの白ワイン蒸し添え
                    ビワのコンポート・サワークリーム添え
                カレイのグリエ・泡立てポテトクリームと黒豆添え
                淡路牛のロースト・チョコレート&タイムのソース
                      マンゴーのフォンダンショコラ
               トマトのコンフィチュールと泡立てたレモン&ライム果汁
                       飲むチーズケーキ(瓶入り)
                 カヌレ・ド・ボルドー・薔薇のミントティーとともに
                            ミニャルディーズ


まずアミューズブーシェが「カエルのたこ焼き」だ。
いきなり、どう考えても受け狙い。これが、大阪の心意気なんだろうか。
唐揚げ用のふさふさがついたピックで出てくるあたり、もう完全に笑いを取りに来てる。
いや、〝勝負ディナー〟でなくて、本当によかった…
カエル、といっても足が〝ピョン♪〟と出てるわけではない。
シェフいわく、カエルでダシを取ったらしい。バジルのソース添え。
おいちい。おいちいが、カエルの淡い味わいまではさすがに、ね。
まあ、とりあえずこんな感じで変わった料理が続くらしい。
これで、きっちり心構えができたわけだ。


続いてスープ。
「冬瓜とホタテ貝柱のコンソメ・胡椒のアルコール添え」
ウォッカだろうか? 胡椒の香りを効かせたお酒が、試験管みたいな瓶で供される。
瓶詰めのコルクを開けると、胡椒の香りが漂ってくる。
ただ、趣向としては面白いのだが、アルコールの分量が難しい。
もらった分の半分ちょっとを入れたら、アルコール臭くてコンソメの味崩壊。
最低限の量だけ供してくれればいいのにな、との感あり。


いよいよ、前菜に移る。
「炭焼き鱧のコンソメゼリー寄せ」
コンソメが続いたが、こちらの方が味としては上だろうか。
鱧があまり刃を入れていないせいか、やや硬めかも。
皮も分厚く、スプーンで食べるのに苦労したが、味はいい。
炭焼きの香りとコンソメの風味も、いい感じにマッチしてる。
スライスしたスダチもほのかに香り、なかなかやるね、の一品。
ただ、鱧をもっとも美味しく食べる調理法か、といえばやはり、ね。


お次は「蟹玉のスクランブルエッグ風・サマートリュフ添え」
エッグスタンドに載せた卵がふたつ。貝殻スプーン付き。
殻の上が割ってあり、そこにカニと卵のスクランブルが入っている。
非常に遊びが効いた一品だ。
スクランブルといっても、口の中でふわりととろけるその食感は、別世界のそれだ。
中華の蟹玉ともまったく違う、フレンチ流解釈の蟹玉は、
豊かな味わいとともに、幸せな残り香を残してくれる。


ここで小休止。
「メロンとオレンジのソルベ・ハーブとメロンのムース添え」
このソルベの味といったら、もうたまらない。
メロンの甘みとオレンジの酸味を組み合わせ、旨味を最大限に引き出した感じだ。
一気に口の中がリセットされ、次の料理への意欲が巻き起こる。


続く料理は「フォアグラとミミガーのテリーヌ」
ミミガーは沖縄料理でおなじみ、いわゆるブタの耳の軟骨だ。
ペーストになったフォアグラの柔らかさと、ミミガーのコリコリ感が面白い。
ミントのソルベも添えられ、濃厚な中にもさわやかさが味わえる。
ただ、ボリュームはパッと見の3割増し、といった感じ。
せっかくのソルベの効果も虚しく、ややヘヴィな後味を残し、次に臨むこととなった。


次は「フォアグラのグリエ・バルサミコソース・イチジク添え」
コンソメといい、フォアグラといい、
重なるのは意図的な組み立てなのか、偶然重なっちゃって、気付かなかったのか。
「フォアグラ」の持つ名前が、客にもたらす威光というのは否定しないが、
フォアグラばっかり食べたいわけじゃないんだが…、とやや不満。
しかし、味はいい。というか、絶品だ。
バルサミコで煮立てたイチジクの甘みとフォアグラの濃厚な脂肪が、非常にマッチしている。
おお、これが味のマリアージュ、という逸品だ。


そしてここでまた、〝変わり種料理〟に戻る。
「鰻のパエリア・炭焼きショウガの香り瓶詰め」
またも試験管のような瓶に、サフランをたっぷり効かせたパエリアと、鰻。
コルクを開けると、また豊穣な香りが立ちこめる。
しかし、食べにくいぞ、これ。
駄菓子屋の軒先で、ヘンなお菓子を食べているような、俗な楽しみはあるが、やっぱり食べにくい。
味は気持ち、サフランが効き過ぎかも。
香りを楽しむ方に重きを置いた一品なのかも知れない。


小休止その2。
「ニンジンとホウレンソウのゼリーカクテル・サワークリーム添え」
こちらも試験管詰め。
ニンジンの赤、ホウレンソウの緑、サワークリームの白が目にも鮮やか。
長いスプーンで、混ぜて食べてください、とのこと。
もっと軽い感じのムースかと思いきや、けっこうしっかりとゼラチンが効いてる。
かき混ぜるのに、かなり苦労した。
苦労したんだが、お味の方はかなりいける。
ニンジン、ホウレンソウのそれぞれの甘みがサワークリームでいい感じに調和し、
すごく上品なフルーツゼリーを食べているかのような感覚。
試験管もいろいろ使い方があるもんだ、と感心もしてみたりする。


さて、魚料理だ。
「鰆のポワレ・トマトとアボカドの白ワイン蒸し添え」
こちらは、比較的ベーシックなお料理といっていい。
しかし、うまい。鰆の火加減が、抜群にいい。
そのジューシーな〝肉汁〟に、トマト、アボカドと白ワインの旨味が加わると、
もう味覚は恍惚の域に達してしまう。
〝お遊び料理〟は時にごまかしがきくこともあるけど、
こうしたシンプルな料理は、そのまま技術が出てくるところだ。
このひと皿で、とりあえずこの店の味に、一定の信頼感を覚えることができた。


いよいよ終盤にさしかかり、またも小休止を挟む。
「ビワのコンポート・サワークリーム添え」
丈の短めなフルートグラスに入ったビワに、泡立てたサワークリームがかけてある。
これも、スプーンで、とのこと。ムリだよ。
しかたないので、流し込む。種がひとつ、種がふたつ…
都合4つの種がお口から生まれる。お行儀悪いが、だって、しかたない。
奥さま不運…。種6つに「ありえない…」と苦笑を浮かべる。
しかし、味はいいよ、とても。びわの自然な甘みも生きていたし。


続いて、お魚2品目。
「カレイのグリエ・泡立てポテトクリームと黒豆添え」
こちらのカレイはほんの少し火が入りすぎかも。
口の中でモコついたりはしないのだけど、やや硬くなってしまってる。
カレイの野趣あふれる感じを出したかったのかもしれないけど、やや香りも不足気味。
もちろん味は及第点以上なのだけれど、
ポテトと黒豆のボリュームも少し気になるところで、
全体のボリュームから考えると、ちょっと疑問符も残るひと皿だった。


さあ、いよいよメインのおにく。
「淡路牛のロースト・チョコレート&タイムのソース」
これに関しては、申し訳ないけどやややり過ぎの感ありだ。
甘みのないチョコレートと赤ワインを使ったソースは、悪くない。
タイムを刻んで、お肉に塗り付けたのも悪くない。
しかし、この二つの組み合わせは、正直いただけない。
後味があまりよろしくないのだ。つまり、タイム味のチョコレートが苦く残る。
脂を抑え、赤身のうまさにこだわった淡路牛が美味しかっただけに惜しいんだが、
ちょっと奇をてらいすぎたというか、狙いすぎだったのかも。
たとえ、これがミスマッチの妙を醸し出し、ひと皿としては成功した場合でも、
メニュー全体の味の組み合わせから考えると、ちょいと違和感が残るような…


だが、メインにやや不満を残し、尻すぼみになった流れをデザートが救う。
この日のベストプレート、「マンゴーのフォンダンショコラ」の登場だ。
マンゴーの濃厚なソースを使った、マンゴーの焼きショコラ。
こんがり焼き上がったケーキにフォークを入れると、
マンゴーのチョコレートソースがとろりとろりとあふれ出す。
この香り、この味わい、この食感…
このひと皿だけ食べに来たとしても、決して惜しくない。


デザート2品目は「トマトのコンフィチュールと泡立てたレモン&ライム果汁」。
トマトのコンフィチュール(平たくいうと、ジャムですな)のさわやかさは格別。
やや砂糖の甘みが気になったのと、
レモン&ライムにもすこし酸味があれば、もっとトマトの甘みが引き立ったのにな、
との感触は多少残ったけど、これはこれで楽しいひと皿。
濃厚なマンゴーショコラとの相性もいいし、おいしくいただけたと思う。


3品目のデザートは、またも変わり種だ。
「飲むチーズケーキ(瓶入り)」
これもお得意の試験管を使い、コルクのフタで香りを封じ込めた。
マスカルポーネ系のちょっとコクのあるクリームチーズとリキュールを使い、軽く泡立てている。
感触としては、ココアパウダー抜きで、スポンジ部分のないティラミス、かな。
リキュールの加減が非常にいい感じで、もう一口食べたい、と後を引くお味だ。


デザートの最後を飾るのが「カヌレ・ド・ボルドー・薔薇のミントティーとともに」
いわゆるカヌレなんだが、これがまたいい。
そういえば、焼きたてのカヌレってなかなか食べる機会もないけど、
このアツアツを頬張る感覚って、かなりたまらない。
カラメリゼされたフランボワーズのソースと、
カスタード生地の濃厚さのコンビネーションも絶妙だ。
少し冷めてくると、歯ににちゃにちゃとまとわりつくのはご愛敬だが、
それとて、デザートのお楽しみのひとつと考えれば、そう悪くない。
薔薇のミントティーのさわやかさも手伝い、デザートの締めとしても非常にイケてるひと皿だ。


ミニャルディーズのお菓子はだいたい10種類ぐらい。
こちらはあまり力を入れていないのだろうか…。
ホワイトチョコレートも含め、チョコレートは全般に甘さがちょっときつい感じ。
焼き菓子の類も、悪くはないけど、絶品でもない、いわゆる平均的な印象だ。
紅茶の入れ方も失格で、あまり食べる気にもなれず、珍しく大半を残すハメに…
で、その紅茶もアールグレイしかない、という割に、あまりこだわりが感じられない。
かなり渋めだし、アールグレイ特有の香りがない。
1杯目は何とか飲み干すしたけど、2杯目はとても飲めたものじゃない。
ポットサービスをしてくれたわけでもないのに、何で?
入れ直しをお願いして、持ってきたお茶も、何とか飲める程度。
それも「失礼しました」のひと言もないというのは、
「何かご不満でも」と怒り出されても不思議じゃないんだが、どうだろうか。
それまでの流れで、こちらにもある程度許容の精神ができていたので、
まあ怒る気にもならなかったんだけど、ね。


というわけで、いろいろ齟齬も多いけど、
どこかテーマパーク的な楽しさにもあふれてる、このお店。
前述通り、間違いなくいえることは〝勝負ディナー〟には不向きだ。
よほどシャレのわかるフレンチ上級者の女性であっても、
この店に連れてきた、ということの真意を測り知ることは、かなり難しいだろう。
やはり、このお店のユル加減は、正直「知らなかった」ではすまされない。


しかし、気心のしれた間柄でもう何度目かのフレンチ、というなら、悪くない。
むしろ、完璧に気取ったディナーにはない、
何とも妙ちくりんな面白さはいいスパイスにもなるだろう。
ある料理番組のコーナーに
「たまに行くならこんな店」というのがあったが、「シェ・ワダ」はまさにそんな店。
一度足を運んでみて、損はないと思う。
もちろん、もう一度強調するけど、
〝勝負ディナー〟じゃない、楽しい食事のひとときに、ね。