有川浩「空の中」。

mike-cat2005-07-10



オビに〝ライトノベル文化が生んだ傑作 2004年度SFベスト1〟
ということは、これはライトノベルなわけかしら? それとも?
ライトノベルというジャンルを読んだことがない、というか、
そういえば、ライトノベルの定義、というのが、まずわからない。
調べてみると、いわゆるジュブナイルというやつらしい。
はてなには、少年・少女にも読みやすく、軽い文体で書かれたもの、とある。
しかし、学術書とかも含め、すんごく難解な文体の本って、
僕の場合、20代前半までの方がスラスラ読めた気がするのだが。
少年少女だから軽い文体、というのに、やや疑問も抱きつつ、読んでみる。


なるほど、ストーリーのテンポ重視というか、
非常にスラスラと、ビジュアル的に迫ってくる。
会話部分も、やたらと長い〝−〟が入っていたりして、ちょっとアニメorマンガチック。
最初は慣れないけど、文字のアニメ(もしくはマンガ)を読んでいる気になれば、
むしろ、そのテンポが次第に心地よくもなってくる。
世界観的にも、けっこうアニメっぽい。
ガンダム」という感じとは違うけど、「機動警察パトレイバー」にはやや近しい感じかも。
エヴァンゲリオン」とかは、僕は世代が違うので(パトレイバーも怪しいが)知らないが、
たぶん、セリフ回しとか含めて、こんな感じなのだろうな、と。
軽い感じの文体ににじみ出る、ヒリヒリするようなストイックさ、というのは、
この小説に限らない、ひとつの特徴なのかもしれない。


とはいえ、この小説の基本線はSFドラマだ。
語り口はその〝ライトノベル〟であっても、
物語の持つ魅力そのものは、〝ふつう〟の小説と相通じる、普遍性を持っている。


日本が開発を進める民間ジェット機が、高度2万メートルの上空で謎の爆発を起こす。
後を追うように、自衛隊のF−15も同じ空域で、ふたたび謎の爆発事故に。
そこには、何があるのか。事故調査は、混迷を極めるばかり。
自衛隊の事故機と編隊を組んでいた生き残り、 光稀と高巳は、調査に乗り出す。
一方、自衛隊機の事故でパイロットだった父を失った瞬はある日、
海岸でクラゲに似た不思議な生物を発見する。
クラゲもどきを〝フェイク〟と名付け、家に連れ帰った瞬は、
失われた父、そして母に代わって、〝フェイク〟を新しい家族関係を築いていく。
調査のため、ふたたび例の空域に向かった光稀と高巳は、〝空の中〟の何かに、ついに遭遇する。


この〝何か〟をめぐって、様々な事件と混乱が起こっていくのだが、
この〝何か〟も、なかなかサプライズめいた感じで、なかなか面白い。
一歩間違えば、トンデモSF(いや、本格SFファン的にはそうなのかも)
になりかねないような、その正体、そしてその特性を、存分に活かした物語が展開する。
ジュブナイルだから、というのもあるのだろうが、
傷つきやすく、ある意味傲慢な10代が出てきたりするあたりも、定番っぽいが、
そのストレートな描写は、手慣れたドラマづくりとは一線を画した感じで、好感が持てる。


全般的には、楽しく読めたと思う。
ただ、このトーンの小説を続けて読むのは、やや辛いかも。
これがいわゆる〝ライトノベル〟全体の中で、どれぐらいの評価を得ているのか、
そこらへんの知識なしにいうのも、微妙な気はするが、それが素直な感想。
また、面白そうなのがあれば、機会がみて読んではみたいな、と。
以上、はじめてのライトノベル、でした。