椰月美智子「未来の息子」

mike-cat2005-05-15



昨日、出先で予想外に早く本を読み終え、急きょ購入。
初めて〝認識した〟名前だ。何で認識か、というと、
「未成年」をキーワードに編まれたアンソロジーTeen Age」に入ってた。
http://d.hatena.ne.jp/mike-cat/20041127
ちなみにこちらには、角田光代瀬尾まいこ藤野千夜・椰月美智子
・野中ともそ・島本理生川上弘美のそうそうたる面々が並ぶ。
それもあって、名前はしっかり失念していた…


で、この作家のプロフィール。
〝2002年『十二歳』で講談社児童文学新人賞を受賞。
 思春期の少女の揺れうごく内面を瑞々しく描いて、好評を博す 〟
またも、児童文学の世界から、精鋭が送り込まれてきた。
って、別に僕のもとに送り込まれたわけじゃないな…、ヘンな表現。
まあ、とりあえず、児童文学の世界から飛び出した、ということだ。
僕の場合、児童文学というと、字が大きくて読むのがつらいんだが、
佐藤多佳子にしろ、森絵都にしろ、少年少女世代ならではの、
繊細さと傲慢さを表現するのが本当にうまい。
わたしは繊細だ、オトナは汚い! 的なチャイルディッシュな正義感を、
傲慢と了解しつつも、その中にある豊かな感性を汲み取ろうとする。
そこに深みが出てくるんだと思う。
そこにこそ、二層、三層に織り込まれた、味わい深い物語があるのだ、と。


そんなことをくどくど書いているときりがないので、本に戻る。
ちょっと超自然的な要素を加えた、いわゆる奇譚をベースにした短編集だ。
たとえば、表題作の「未来の息子」は、
コックリさんをしていたら、なぜか未来の息子が、出てきてしまった。
それも、ミニチュアサイズの中年男で、という話。
「三ツ谷橋」は、
三ツ谷橋の上にたたずむ黄緑のばあさん、〝三ツ矢さん〟との遭遇話。
「月島さんちのフミちゃん」は、
頭の後ろに口ができたり、どっかにち×ち×が生えたりする(妄想らしいが…)
する姉と、その双子の兄(ゲイ)に育てられている女子中学生のお話。


そういえば「女」には、超自然的要素はないかもしれない。
恭一、貢、マーロン、浩輔…
さまざまなオトコをたちを思い浮かべ、自ら快楽に浸っていく直美の話。
生活は常に「きょうのオカズ(あっちの…)は何にしようかな」で過ごす直美が、
いとこの少年とふたりきりの一夜を過ごすと、どうなるか。ああ、怖い…
で「告白」は、さびれた温泉旅館で出会った、不思議な布団敷きのおじさんの話。
このオジ、両手とも、指は3本。体全体に、黒髪の女性の入れ墨をまとっている、
このオジにひかれていく彼女の告白を聞く僕、の心情が語られる。


以上の5編なんだが、最初の3編は肩に力が入りすぎ、の感が強い。
「未来の息子」なんて、ムリにいい話にしようとする意図が見えて、
話が進むに連れ、気持ちが萎えていくのが自分でよくわかる。
いてみればタイムトラベルものの亜種だし、意外にありふれた話なんだから、
結末まで何かに当てはめたような書き方は、正直つまらない。
で、「三ツ谷橋」「月島さんちの…」の2編は、何というか
最初に感じた「えっ、何? これ」という感覚が、そのまんま最後まで続く。
ひらたくいうと、ようわからん、というだけなんだが、
まあ、これは文学的意図を読み取れない、こちらの読解力の問題かも。


ただ、この文学的意図、というやつ、いつも思うのだが、
読んだ人間の後知恵に過ぎないことも多いし、僕はあんまり当てにしない。
もちろん、作者の持つ潜在的な意識とかが、
著作という手法によって抽象的に表現される、という意味は理解できるが、
このテの解説って、あまりにも深読みが過ぎる気がして、何となく気になる。
だから、わからないものは「わからない」と言い切る勇気も(蛮勇?)も必要かな、と。


しかし、残り2編はなかなか味わい深い。
「女」の直美の体から立ち上る、黒い〝もやもや〟。
セーターの胸元に無遠慮に投げつけられるいやらしい視線、
一緒に入ったお風呂で触れる、小学生の甥シオンのなにげない手の触感…
そうした、生理的嫌悪感への静かな怒りがたぎっていく様は、かなり怖い。
だが、怖さはそれだけではない。
そうした感情をまったく理解しようとしない、夫との感覚のズレも、これまた怖い。
ひとりよがりな物言い、ひとりよがりなセックス、ひとりよがりな行動…
そして、それらもまったく理解できない、ひとりよがりな思考。
ここにも身につまされる恐怖が潜んでいるようで、気色悪かったりする。


「告白」でも、正体不明のオトコそのものの、気色の悪さもさることながら、
そのオトコに惹かれていく彼女が理解できず、苛立っていく様が、
独特の居心地悪さを醸し出していく。
いや、読んでいて、彼氏が無神経なことは明白なんだが、
それでも、その描写が克明なだけに、それも〝込み〟で、面白い。
多層的な恐怖、とでもいうのだろうか。
ものすごく後味の悪いエンディングも含めて、奇妙な読後感が残る。


以上、結論をいうと、玉石混交の5編というのだろうか。
ひとつひとつ気になる短編揃いではあるけど、面白いか、と聞かれると微妙。
次回作品が気になる、というのが落としどころか。
これだけ偉そうなことを書いていて、
自分はまことにありふれた結論でお茶を濁す。そんな自分に…、ま、いいや。