サラ・ゲイ・フォーデン「ザ・ハウス・オブ・グッチ」

mike-cat2005-05-14



ようやく読み終えた。
言わずと知れた、あのファッションブランド、
GUCCIの誕生から、家族の内紛、そして復興、
そして投資ビジネスの世界での苦闘を描いたノンフィクションだ。
2004年9月発行、けっこうすぐに買っていたのだが、何だかとっつきにくい。
で、だいぶ長い間積ん読になっていたのだが、
もっと早く読めばよかった、と後悔もしてみたりする。
グッチというブランドの栄枯盛衰(いや、いまは栄えてるが…)もさることながら、
ヘタな小説顔負けの、グッチ一族の内紛騒ぎ、
そして、現在のファッションブランド界のビジネス模様にいたるまで、
余すことなく書き上げた、入魂のノンフィクションだったりするのだ。
多少、ビジネス本的な要素を含む関係で、
物語的なテンポはやや二の次とはなっているが、
それでも、読む人を引き込まずにはいられない、ドラマがそこにはある。


まず、冒頭を飾るのが、
グッチ一族最後の経営者、マウリツィオの暗殺だったりするのだから、とにかくすごい。
そういえば余談だが、
以前、フロリダビーチのオーシャン・ドライヴで、タクシーの運ちゃんが勝手に
ヴェルサーチ殺害現場〟に連れてってくれたことがあったっけ。
「ここ、どこだか知ってるかい?」とかいわれても、
当然最初はわからず、ヘンな訛りの〝ヴェルサーチ〟を3回くらい聞き直して、
ようやく理解したのだが、何となくヘンな感じだったっけ…


どうでもいい話なので、本に戻る。
本の前半は、
創業者グッチオ・グッチの二代目で、グッチを大企業に拡大したアルドが、
二流ブランドに落ちたグッチの再生を図る甥のマウリツィオと展開する泥沼の勢力争い。
ちょっとねちっこく描写し過ぎてるので、やや読みにくかったりもするが、
ある意味天才的な商人だったアルドの拡大戦略がまず目を引く。


まず、創業者グッチオの信念でもある、
「価格は忘れても、品質は記憶に残る」のコンセプトの下、グッチを
〝ステータスシンボルとして見せびらかしたくなる、
 ヨーロッパで最初のブランド〟に仕立て上げる。
その後、1970年代には
〝五ドルのキーチェーンから数千ドルのほぼ1キロ近くもある
 十八金のチェーンベルトまであらゆる価格帯の商品が揃っていた。……
 「どんな人にも合う価格帯の商品がそろているために、
 手ぶらで店から出て行くことは難しかった」〟状況を作り出す。
そして、80年代には、キャンバス地のバッグの大量販売で
〝デパートや化粧品売場に大量に並ぶようになり、
 プロのバイヤーは、グッチには「ドラッグストアのイメージ」がつきまとうようになった〟
と、いわれるまでにブランドイメージを転落させるのだ。


そういわれてみれば、ぼくの少年時代(80年代、ね)は、
グッチって普遍的過ぎて、成り金っぽいというか、粋じゃなかったイメージが強い。
しかし、気づいてみると現在のような、
最高級だけどスタイリッシュ、なブランドに生まれ変わってたのだ。
その、グッチの復興を唱えたのが、前述のマウリツィオだ。
ただ、叔父やいとこなどとの骨肉の争いを勝ち抜き、
グッチ復興の道筋を作ったマウリツィオも、
こと経営については素人以下で、グッチを財政面を含めたさまざまな危機に陥れる。
そして、最後は暗殺されてしまったりするのだから、もう大変。
ここらへんも、強烈なカリスマ性を持ちながら、
結局は自己破壊を繰り返す、創業者一族の哀しい性が見て取れる。


こうした家族経営の時代が幕を閉じ、投資家たちの暗躍が始まると、
こんどはファッション業界そのものを巻き込んだ騒動が持ち上がる。
LVMHグループとの買収合戦。
そう、みなさん大好きルイ・ヴィトン持ち株会社との勢力争いだ。
クリスチャン・ディオールなども傘下に持つ、
この超巨大ブランド・コングロマリットとの闘いも、また壮観のひとことだ。
ここらへんまで来ると、
2004年までグッチのデザイナーを務めたトム・フォードが出てきたり、
ミウッチャ・プラダが出てきたり、ジル・サンダーが出てきたり、
はてはイヴ・サンローランも登場したり、で、
ファッション好きには、また楽し、だったりする。
そうそう、ディオール・オムエディ・スリマンって、
もとはイヴ・サンローラン・リヴゴーシュのアシスタントだったんだ、とか、
中途半端にかじった知識も、うまい具合に活きてきて、ふむふむ、なのだ。


多少、ブランド名に詳しい人なら、間違いなく
「えっ、あのブランドって、あそこの傘下だったの」とか、
「このブランドのデザイナーって、もとはあそこのブランドにいたの」という、
まあ、まことにトリビア的な(いわゆる、ムダ知識ね)楽しみもある。
印象的なのは、やはりLVMHグループのえげつなさ。ホントすごい。
その買収合戦が結果的に、
グッチによるYSL買収とかにつながったり、
トム・フォードが、グッチとイヴ・サンローラン・リヴゴーシュの
双方をデザインすることになっちゃったり、という事態を呼び込んだ、というのも興味深い。


まあ、そんなこんなで楽しめるこの本。
ファッション好きにはホントもう、たまらない一冊じゃないか、と思う。
僕? 僕はもう、お洋服のバカ買いからは身を引いたんで、
あくまで一般的な興味の範囲内、で面白かった、ことにしておく。
それに、僕が好きなのはディオール・オムとダナ・キャラン、ジル・サンダーだし…