G.M.フォード「白骨 (新潮文庫)」

mike-cat2005-05-04



憤怒 (新潮文庫)」「黒い河 (新潮文庫)」に続く、フランク・コーソ・シリーズ第3弾だ。
1作目の「憤怒 (新潮文庫)」は、とにかく面白かった。
6日後に死刑執行の日を迎える連続レイプ犯の冤罪を証明すべく、
記事ねつ造で地位を追われた元ニューヨーク・タイムズ記者、コーソが挑む。
という、なかなか魅力のプロットに加え、
捜査の中で次々と暴き出される、警察の腐敗ぶりに、
辛い過去を抱えた入れ墨の美女カメラマン、メグ・ドアティの登場など、
スパイスの効いた設定が、絶妙の筆致で描かれていた。
第2作の「黒い河 (新潮文庫)」は、正直あんまり印象がないのだが、
コーソのキャラクターと、スピード感のある展開で、
けっこうあっという間に読んだ記憶だけ残っている。いいかげん…


今回のお話は、
裁判所からの召喚を逃れるべく、大雪で閉鎖の空港からレンタカーで目的地に向かった、
世捨て人作家のコーソとメグは、凍死寸前で立ち入った民家の床から、
何体もの白骨死体を発見してしまう。まあ、大変。
白骨死体の正体をめぐって、新たな疑惑も浮上、コーソもさらに別件で疑惑をかけられ…
とまあ、にぎやかこの上ない展開で、読者をぐるんぐるんと振り回してみせる。
本拠地のシアトルを離れて、極寒の中西部に向かったコーソが、
ウィスコンシンの保安官だの、FBIだの、はてはテキサス州警の連中まで呼び込んでしまう。
警察の腐敗を暴いたりすることも多いコーソだから、当然警察との相性はいまいち。
「あんたみたいな有名人が……
 警察をまぬけに見せることで金を稼いでいる方が……
 白骨死体の山を掘り当てたのはまったくの偶然だったと信じろと言うわけか」
こんなコトを言われたりするのも、ごく当然の成り行き。
この警察の面々もなかなか味わい深い人たちなので、話はいよいよ盛り上がるのだ。
傑作か、といわれるとまあ微妙なんだが、読んで損はない一冊といえる。


もちろん、過去の作品の印象が希薄なシリーズものは、
以前のお話を覚えていないと、読む時にけっこう苦労するものだが、
この「白骨 (新潮文庫)」は比較的、大丈夫とも思う。
コーソとメグの間にかつては関係があったことだけ承知していれば、すぐに物語世界に入っていける。
もちろん、細かい部分は「どうだったかなぁ…」なんて、思いながら読み飛ばしはしているんだが。
ちなみにこのふたりの現在の関係はこう。
メグが、なぜふたりは関係を続けられなくなったか、をコーソにあらためて問う。


〝「おれの記憶によれば、こうしようというのはきみのアイデアだったよ」
 コーソは彼女の肩を抱いた。
 「おれは“感情面でアクセス不能”だと言って、
  地上の快楽の世界から締め出したんじゃないか」
 「そうよ」
 「関係を維持できないカップルはたくさんいる」 
 言いながら、コーソは彼女を引き寄せた。
 「セラピストが商売繁盛しているのはそのためさ」
 「それはそうだけど、そういうのはふつうわたしたちみたいに
 馬の合う者同士にはないことでしょう」
 彼女は空いている方の手をふり動かした。
 「それなのに完全な関係ではいられない。誰しもときには問題を抱えるものだけど、でも−」〟
魅力的なプロットを彩る、減らず口のコーソのキャラクターがうかがえる場面だ。
メグとの関係も、もちろんストーリーの一端を担う重要な要素で、
ますます作品世界がにぎやかなものになってくる。


それでも、話自体は読み終えてみると、意外に印象は希薄だ。
読みやすさ、がかえって災いしている感もあるし、
先に引用した、ディテイルの面白さも、
二点三転したストーリーの骨子を印象づけるのには、阻害要因になっているのかも…
傑作かどうか、で保留をつけた理由はそこにある。
たぶん、次作でも同じことを思って、本を買い込むはずだ。
「前作はよく覚えていないけど、このシリーズ面白かったはず」
ううん、せめてこのブログ見返してから、読むことにしようっと。