西原理恵子「毎日かあさん2 お入学編」
2巻が出ていたとは知らなんだ。
天満橋のジュンク堂書店で見つけ、狂喜する。
喜びすぎ? いや、サイバラ好きなもんで…
西原理恵子作品といえば、大別してふたつのカテゴリーに分けられるだろう。
女性漫画家による、捨て身アプローチのパイオニアともなった「まあじゃん放浪記」系。
「恨みシュラン」「できるかな」「鳥頭紀行」などなど、きわどいエグさで攻め込んでくる。
もうひとつは「ゆんぼくん」「ぼくんち」などに代表される、切ない系。
エグい描写はそこかしこにあるんだが、
底流に流れるその雰囲気は、あくまで切なくって甘酸っぱい。
あのマンガを書いてる人が…、とギャップを感じずにはいられない。
もちろん、どちらも面白いのだが、僕が愛読してきたのは、主にエグい系。
「恨みシュラン」で、世の半端グルメを叩き斬り、
「できるかな」では、こちらがドキドキするような過激さで、税務署に挑戦状を叩きつける。
その後、過激な女性漫画家は雨後のタケノコのように現れたが、
ただ単に自堕落なだけだったり、汚いだけの下品だったり…
過激さでは並ぶ人はいたけど、やはりギャグ漫画としてのレベルでは、
サイバラのような切れ味には、遠く及ばないものばかりだったと思う。
だけど、切ない系もまた、サイバラならではテイストだったりする。
こっちの系統を一冊読み切るのは、なかなかつらいんで、
買ってもチョビチョビとつまみ読みというケースも多かった。
「上京ものがたり」なんて、もう傑作なんだけど、
あんまりに切なくって、しばしどうしようもなくなる。
まさにサイバラ自身のすさまじいまでの上京物語だ。
同情を買いたいワケじゃないから、いやらしさはない。
でも、やっぱり痛くって、切ないのだ。
これ、やはり西原理恵子にしか出せない味わいだ。
で、何を言いたいか、というと、この「毎日かあさん」は、
その切ないのとエグいののバランスが抜群なのだ。
もちろん、新境地、とはいわない。
これまでもこういう感じの作品はあった。
だが、この作品はそのバランスのよさといいい、完成度といい、絶妙なのだ。
第一巻の「毎日かあさん カニ母編」もそうだったが、
いかにも、西原理恵子と元夫でカメラマンの鴨志田譲のお子さん、
という感じのご兄妹と過ごす日常が、
おおむね笑わせ、そしてほのぼの、時にグッと胸に迫る。
最近小学校に上がったばかりのこのお兄さんの方がどうも、
かなり独特というか、やんちゃというか、ムチャクチャというか…
母親でもある西原理恵子自身が〝バカ〟と言い切るぐらい、
まあ、かなりとんでもない息子さんだったりする。
いま保育園の妹さんも、なかなかのくせ者だ。
親や周囲の気を引くテクニックは、オンナとしての完成度の高さを早くも示している。
こう説明しても、なかなかイメージしにくいだろうから、こんな感じ↓
引用しすぎかとは思うが、許してたもれ…
毎日新聞の週一回連載で、Webでは月二回更新。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/women/etc/riezo/
で、そのメチャクチャさとかも、もちろんいいのだが、
親としての西原理恵子、がまたいい。
いわゆる〝出来の悪い〟息子と真っ正面から渡り合う姿だ。
世間一般に求められる〝子供らしさ〟を押しつけない。
世間一般に求められる〝学習レベル〟〝これができる〟レベルを押しつけない。
もちろん、できないよりは、できた方がコトは楽に運ぶから、
それなりの対処はするが、無理強いはしない。
規制の枠に当てはめない、という信念が感じられる。
当然、成長していくに連れ、大きなリスクを背負うことは間違いない。
だが、作品上で見る限り、親としてそのリスクを背負う覚悟はきっちりと伝わってくる。
言葉だけでは終わらない〝あるがままを受け止める〟度量が伝わってくる。
まあ、極端にシニカルに見ようとすれば、
売れっ子漫画家、という裕福な環境だからこそ、ともとれるんだろうが、
それだけで切り捨てられるような、安直な覚悟には感じられない。
もちろん、きれいごとばっかりじゃない。
読んでもらうとわかるが、本当にムチャクチャな息子だ。
で、サイバラ自身だって本当にムチャクチャだから、
日常はさぞかし壮絶なものなんだと思う。
しかし、建前だけでの逃げがないから、
たぶん、揺るぎのない愛情だけは、間違いなく伝わっているんだろうと思う。
「恨みシュラン」とか「できるかな」は、お好きなヒトに、だったけど、
この作品は、西原理恵子ファン以外のひとにも、ぜひお勧めしたい。
どのくらいお勧めか。
そう、購読する新聞を変えてでもぜひ、という感じか。
しかし、新聞取ってない僕が書くと、説得力ないか…
まあ、とりあえず、胸を張っていえることは、まずひとつ。
この「毎日かあさん」、間違いなく西原理恵子の代表作になる、ということだ。