西原理恵子「毎日かあさん2 お入学編」

mike-cat2005-03-28



2巻が出ていたとは知らなんだ。
天満橋ジュンク堂書店で見つけ、狂喜する。
喜びすぎ? いや、サイバラ好きなもんで…


西原理恵子作品といえば、大別してふたつのカテゴリーに分けられるだろう。
女性漫画家による、捨て身アプローチのパイオニアともなった「まあじゃん放浪記」系。
「恨みシュラン」「できるかな」「鳥頭紀行」などなど、きわどいエグさで攻め込んでくる。
もうひとつは「ゆんぼくん」「ぼくんち」などに代表される、切ない系。
エグい描写はそこかしこにあるんだが、
底流に流れるその雰囲気は、あくまで切なくって甘酸っぱい。
あのマンガを書いてる人が…、とギャップを感じずにはいられない。


もちろん、どちらも面白いのだが、僕が愛読してきたのは、主にエグい系。
「恨みシュラン」で、世の半端グルメを叩き斬り、
「できるかな」では、こちらがドキドキするような過激さで、税務署に挑戦状を叩きつける。
その後、過激な女性漫画家は雨後のタケノコのように現れたが、
ただ単に自堕落なだけだったり、汚いだけの下品だったり…
過激さでは並ぶ人はいたけど、やはりギャグ漫画としてのレベルでは、
サイバラのような切れ味には、遠く及ばないものばかりだったと思う。


だけど、切ない系もまた、サイバラならではテイストだったりする。
こっちの系統を一冊読み切るのは、なかなかつらいんで、
買ってもチョビチョビとつまみ読みというケースも多かった。
上京ものがたり」なんて、もう傑作なんだけど、
あんまりに切なくって、しばしどうしようもなくなる。
まさにサイバラ自身のすさまじいまでの上京物語だ。
同情を買いたいワケじゃないから、いやらしさはない。
でも、やっぱり痛くって、切ないのだ。
これ、やはり西原理恵子にしか出せない味わいだ。


で、何を言いたいか、というと、この「毎日かあさん」は、
その切ないのとエグいののバランスが抜群なのだ。
もちろん、新境地、とはいわない。
これまでもこういう感じの作品はあった。
だが、この作品はそのバランスのよさといいい、完成度といい、絶妙なのだ。
第一巻の「毎日かあさん カニ母編」もそうだったが、
いかにも、西原理恵子と元夫でカメラマンの鴨志田譲のお子さん、
という感じのご兄妹と過ごす日常が、
おおむね笑わせ、そしてほのぼの、時にグッと胸に迫る。


最近小学校に上がったばかりのこのお兄さんの方がどうも、
かなり独特というか、やんちゃというか、ムチャクチャというか…
母親でもある西原理恵子自身が〝バカ〟と言い切るぐらい、
まあ、かなりとんでもない息子さんだったりする。
いま保育園の妹さんも、なかなかのくせ者だ。
親や周囲の気を引くテクニックは、オンナとしての完成度の高さを早くも示している。
こう説明しても、なかなかイメージしにくいだろうから、こんな感じ↓

引用しすぎかとは思うが、許してたもれ…
毎日新聞の週一回連載で、Webでは月二回更新。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/women/etc/riezo/


で、そのメチャクチャさとかも、もちろんいいのだが、
親としての西原理恵子、がまたいい。
いわゆる〝出来の悪い〟息子と真っ正面から渡り合う姿だ。
世間一般に求められる〝子供らしさ〟を押しつけない。
世間一般に求められる〝学習レベル〟〝これができる〟レベルを押しつけない。
もちろん、できないよりは、できた方がコトは楽に運ぶから、
それなりの対処はするが、無理強いはしない。
規制の枠に当てはめない、という信念が感じられる。
当然、成長していくに連れ、大きなリスクを背負うことは間違いない。
だが、作品上で見る限り、親としてそのリスクを背負う覚悟はきっちりと伝わってくる。
言葉だけでは終わらない〝あるがままを受け止める〟度量が伝わってくる。
まあ、極端にシニカルに見ようとすれば、
売れっ子漫画家、という裕福な環境だからこそ、ともとれるんだろうが、
それだけで切り捨てられるような、安直な覚悟には感じられない。


もちろん、きれいごとばっかりじゃない。
読んでもらうとわかるが、本当にムチャクチャな息子だ。
で、サイバラ自身だって本当にムチャクチャだから、
日常はさぞかし壮絶なものなんだと思う。
しかし、建前だけでの逃げがないから、
たぶん、揺るぎのない愛情だけは、間違いなく伝わっているんだろうと思う。


「恨みシュラン」とか「できるかな」は、お好きなヒトに、だったけど、
この作品は、西原理恵子ファン以外のひとにも、ぜひお勧めしたい。
どのくらいお勧めか。
そう、購読する新聞を変えてでもぜひ、という感じか。
しかし、新聞取ってない僕が書くと、説得力ないか…
まあ、とりあえず、胸を張っていえることは、まずひとつ。
この「毎日かあさん」、間違いなく西原理恵子の代表作になる、ということだ。