宇佐美游「FOXY」

mike-cat2005-02-24



オビに惹かれた。
〝させないけれど、お金はください。〟
さいですか。実際ではご勘弁だが、他人事だと面白い。無責任…


北海道から上京してきたモデル志望の千華が、
インチキ事務所に騙され、クラブのホステスに〝身を落とす〟。
この〝身を落とす〟というのが、ホントに落としてるの?
という問い掛けもそこかしこにある。
そう、水商売で何がいけないんだ、みたいな。
多少、力が入りすぎなのは、著者自身が銀座のホステス出身だから?
水商売をバカにするオンナに限って、とてもおカネを取れないようなオンナ。
だとか、亭主が鼻の下伸ばして…
みたいな、挑発的な言葉が次々と繰り出される。
言いたいことは理解できるけど、あんまり力入りすぎは、
かえって、ちょいと興醒めするかも。


決して客とは寝ないけど、おカネは徹底的に引っ張る、
ナンバーワンホステス繭子との出会いが、千華を変える。
単なる田舎臭い小娘が、
洪水のように押し寄せるさまざまな経験の中で変わっていく。
繭子の教育は、なかなか強烈だ。
「男もお金も、頭を使えば思いのままになるわ。
 体なんか売らずにね。女優になるのよ。演じきれば金はつかめる」
別に風俗をバカにしてるわけではない。
あくまで、寝ないことが一番カネになる、という計算だ。
その心意気や、ちょっと超越してて、なかなか清々しい。


もちろん、大金を引っ張れるオンナは、当然努力もしてる。
けっこう、涙ぐましい。
〝新聞はすみずみまで読むし、
 出かけない日は刀剣(筆者注…趣味らしい)の雑誌や文芸書をよく読んでいる。
 絵も好きで、来週ホテルの絵画展に行くと聞いている。
 だから、店での会話も他のホステスとはボキャブラリーが違う。
 スポーツでも株でも、何でも話をすることができる。
 多くのホステスはテレビネタか下ネタばかりだ〟
ふうん、銀座の一流ホステスは大変だね。
ある意味銀座に来る成金の俗物オヤジに合わせてるだけ、
の気もするが、まあ、商売商売、だもんね。


そんな繭子や千華に、
オトコどもはまあみっともないくらい、簡単に貢ぎまくる。
まあ、たぶん実話をもとに書いているのだろうから、
銀座では当然のレベルの話なんだろうが、
つくづくあるところにはあるなぁ、というのと、
くだらないことに使うなぁ、とある意味感心する。
水商売の女のコに貢ぐのって、ミジメじゃないのかな…
だって、お金が介在しないと、構ってもらえない相手でしょ?
ゲーム感覚を楽しんでるのもあるんだろうけど、
それに値するだけのいいオンナってのは、
そういるのかな、などと思ってみたりもする。
こんなこと言って、自分がもしあぶく銭を手に入れたら、
豹変したりして。ああ、オトコって…、なんてならないと自分を信じたい。


本に戻ると、
物語は最初から最後まで、千華と繭子の生き様が描かれていくのだが、
感情移入できたり、できなかったり。
微妙にカッコよくないんだよね。
田舎臭いというか、がめついのが目立ってしまって。
物欲に駆られていても、身を張って生きている風俗譲とかの方が、
僕的にはカッコいいな、と思ってしまう。
それは菜摘ひかる依存姫」をイメージしてる。

もちろん、どこか諦念があったりして、
何となく人生を感じさせるからなんだけど。


もちろん、この小説も最後の決めの台詞はなかなかキてる。
〝男が求めるのは、夢だ。そして欲しがるものを与えるのはプロの仕事だ。
 人からどう見られようと、それがなんだろう。
 ホステスを馬鹿にする人間なんて、どうせ自分のことも馬鹿にしているのだ。
 そんな奴らに低く見られたって、何が怖いものか。
 騙しありだ。夢を売ってうんと儲けて、わたしは銀座で「何者か」になってやるんだ〟
元ホステスとして、これがいいたかったんだろうな、と。
まあ、おっしゃる通りとは思うんだけど、
それだけのプロってどれだけいるの?
ここで出てくる繭子だって、千華だって、
おカネは散々引っ張った挙げ句、けっこうオトコにみじめな思いもさせる。
もっとうまくやってこそ、夢を売って、とかいえるんじゃないのかな、
と、ちょっと反論もしてみたくなる。


小説としては、まあまあの出来。
退屈はしないし、すらすらと読める。
しかし、読み終わったソバから忘れてしまいそうなほど、
こころに訴えかける部分は希薄。
それこそ、もっとちゃんと夢見せてくれたら、と思う。
残るのは、何となく甘さの残る
自称〝プロ〟のおミズさんに対する、不快感だった。