デイヴィッド・ローゼンフェルト「悪徳警官はくたばらない (文春文庫)」
なかなかいい味出してたリーガル・サスペンス
「弁護士は奇策で勝負する (文春文庫)」の続編。
主人公アンディの軽妙な減らず口が、
ネルソン・デミルの小説とかに通じる感じで、とても心地よい。
どんな状況でも常に軽口をたたける、
というのは、ふざけているようでそうでもない。
嫌みと紙一重のウィットを利かせられるか、作家のセンスが問われるところだ。
たとえば、序盤で秘書のエドナについて紹介するくだりがある。
アンディが事務所に顔を出しても、クロスワードパズルから顔すらあげない。
〝エドナなら、たとえエイブラハム・リンカーンその人が
事務所に来ても顔をあげはしないだろう。
エドナは西側世界では右に出る者がないクロスワード・パズルの達人であり、
それだけの驚異的才能は、ひとえに集中力の賜物である。
ぼくが事務所に足を踏み入れたくらいでは、
その集中力の殻にへこみひとつくれない〟
この茶化しっぷりが、どんな状況においても続く。
たぶん、恋人がずっと聞いていたら、けっこううんざりするんだろうが、
赤の他人の読者からすれば、終始ニヤリとしてしまうのだ。
で、ストーリー。
前回、父の残した宿題ともいえる冤罪事件を解決したアンディは、
いまやスター弁護士の仲間入り。愛犬タラとともに、父の遺産を持て余す毎日を送る。
しかし、ある日、恋人で調査員のローリーの、警官時代の仇敵、
アレックス・ドーシーの斬首死体が発見される。
ドーシー殺害を告白する男がアンディのもとに現れるが、
事態はその後一転、ローリーが容疑者にされ…
サスペンスとしては、なかなかそそるプロットで、ストーリーは展開する。
見せ場の法廷シーンも、盛りだくさん。
手斧<ハチェット>とも呼ばれる、尊大な判事ハチェットも前作に続いて登場し、
裁判の行方を左右する、不確定要素として、読者をハラハラさせる。
シリーズが続いても、このハチェットは必ず出てくるんだろうな。
〝何とかとハサミは使いよう〟というけど、
難物をうまく使い切るアンディの口八丁ぶりは、まあ見事のひとことだ。
解決のカギとか、そこらへんについては、
ネタバレもいやなので書くつもりはないが、かなり読ませる。
なかなか突拍子もない感じの展開は見せるが、
少なくとも、おいおい、ということはない。
ちなみに、小説中にもそのテの〝おいおい〟結末の映画が紹介されている。
ある重要証人を喚問する際のだが、ここでは名前は伏せとく。
すこし、引用長いが、ご容赦のほどを。
〝さすがのぼくも、証人がみずからを有罪に導く証言をしている現場を、
それとわかって見ていた経験となると、残念ながら一度もない。
できれば映画<フュー・グッドメン>に出てきた軍事法廷のような
公判の檜舞台に立ってみたい。
それができれば、ジャック・ニコルソンを証人席につかせ、
「お前に真実がわかるものか!」などと好きなだけわめかしておき、
怒りのあまり口をすべらせた相手から、
有罪を認める発言をまんまと引き出すことができる。
しかし、そんな幸運にあずかったためしはないし、
××相手にも恵まれそうにない〟
そう、あの映画はひどかったわけだよ。ホント。
ニコルソン、黙ってりゃいいじゃん、みたいな感じ。
確かに、青臭いことばかり言い張るトムクルに、
鬼司令官が怒り狂う、というのはわかるが、あまりに工夫がなかった。
そんな程度の場面で感情コントロールできない人は、そこまでのし上がらないって…
こちらの小説のラストには、そういう消化不良感はないので、ご安心を。
むしろ、タラたち犬にまつわるエピソードで、ほのぼのと終わる。
いいお話だな、と気持ち良く本を閉じることができるのも、いいことだ。
続編、また期待してもいいかもしれない。