デイヴィッド・ローゼンフェルト「悪徳警官はくたばらない (文春文庫)」

mike-cat2005-02-23



なかなかいい味出してたリーガル・サスペンス
弁護士は奇策で勝負する (文春文庫)」の続編。

主人公アンディの軽妙な減らず口が、
ネルソン・デミルの小説とかに通じる感じで、とても心地よい。
どんな状況でも常に軽口をたたける
というのは、ふざけているようでそうでもない。
嫌みと紙一重のウィットを利かせられるか、作家のセンスが問われるところだ。


たとえば、序盤で秘書のエドナについて紹介するくだりがある。
アンディが事務所に顔を出しても、クロスワードパズルから顔すらあげない。
エドナなら、たとえエイブラハム・リンカーンその人が
 事務所に来ても顔をあげはしないだろう。
 エドナは西側世界では右に出る者がないクロスワード・パズルの達人であり、
 それだけの驚異的才能は、ひとえに集中力の賜物である。
 ぼくが事務所に足を踏み入れたくらいでは、
 その集中力の殻にへこみひとつくれない〟
この茶化しっぷりが、どんな状況においても続く。
たぶん、恋人がずっと聞いていたら、けっこううんざりするんだろうが、
赤の他人の読者からすれば、終始ニヤリとしてしまうのだ。


で、ストーリー。
前回、父の残した宿題ともいえる冤罪事件を解決したアンディは、
いまやスター弁護士の仲間入り。愛犬タラとともに、父の遺産を持て余す毎日を送る。
しかし、ある日、恋人で調査員のローリーの、警官時代の仇敵、
アレックス・ドーシーの斬首死体が発見される。
ドーシー殺害を告白する男がアンディのもとに現れるが、
事態はその後一転、ローリーが容疑者にされ…


サスペンスとしては、なかなかそそるプロットで、ストーリーは展開する。
見せ場の法廷シーンも、盛りだくさん。
手斧<ハチェット>とも呼ばれる、尊大な判事ハチェットも前作に続いて登場し、
裁判の行方を左右する、不確定要素として、読者をハラハラさせる。
シリーズが続いても、このハチェットは必ず出てくるんだろうな。
〝何とかとハサミは使いよう〟というけど、
難物をうまく使い切るアンディの口八丁ぶりは、まあ見事のひとことだ。


解決のカギとか、そこらへんについては、
ネタバレもいやなので書くつもりはないが、かなり読ませる。
なかなか突拍子もない感じの展開は見せるが、
少なくとも、おいおい、ということはない。
ちなみに、小説中にもそのテの〝おいおい〟結末の映画が紹介されている。
ある重要証人を喚問する際のだが、ここでは名前は伏せとく。
すこし、引用長いが、ご容赦のほどを。


〝さすがのぼくも、証人がみずからを有罪に導く証言をしている現場を、
 それとわかって見ていた経験となると、残念ながら一度もない。
 できれば映画<フュー・グッドメン>に出てきた軍事法廷のような
 公判の檜舞台に立ってみたい。
 それができれば、ジャック・ニコルソンを証人席につかせ、
 「お前に真実がわかるものか!」などと好きなだけわめかしておき、
 怒りのあまり口をすべらせた相手から、
 有罪を認める発言をまんまと引き出すことができる。
 しかし、そんな幸運にあずかったためしはないし、
 ××相手にも恵まれそうにない〟
そう、あの映画はひどかったわけだよ。ホント。
ニコルソン、黙ってりゃいいじゃん、みたいな感じ。
確かに、青臭いことばかり言い張るトムクルに、
鬼司令官が怒り狂う、というのはわかるが、あまりに工夫がなかった。
そんな程度の場面で感情コントロールできない人は、そこまでのし上がらないって…


こちらの小説のラストには、そういう消化不良感はないので、ご安心を。
むしろ、タラたち犬にまつわるエピソードで、ほのぼのと終わる。
いいお話だな、と気持ち良く本を閉じることができるのも、いいことだ。
続編、また期待してもいいかもしれない。