ジェフリー・スタインガーテン「すべてを食べつくした男 (文春文庫)」

mike-cat2005-02-19



久しぶりに、自分の〝鳥頭〟ぶりを思い知る。
読み始めて、内容が何となく頭に引っ掛かっる。
「何となく読んだことあるような…」
でも、世の中こういうこと考える人は、
けっこういるんだろうな、などとボケる。
しかし、50ページくらい読んではたと、というかようやく気づいた。
「ああ、あの本だ!!」
読んだ本くらい、覚えておけよ→自分…


そう、同じ著者がヴォーグに連載した食コラムをまとめた、
美食術」を抜粋・再編集した文庫判だった。

美食術

美食術

どうも、文庫化に当たって、原題通りのタイトルにしたらしい。
まんまとだまされてしまった、とか言ってる割には楽しめた。
何しろ、中身とかけっこう忘れてしまってたから。
覚えていたのは、いままで読んだ食コラムの中で、
屈指の面白さだった、ということだけ。
だから当然、今回も非常に楽しめた。もしかして、トクな性格?


で、いまさらながらこの本の面白さについて、考えてみる。
やはり、出てくる食材の珍しさもさることながら、
その独特の発想とウィットこそが、楽しさの源泉だったりする。
本の冒頭、ヴォーグの連載を引き受けるにあたり、
自らの嗜好について分析してみる。これからして、なかなかユニークだ。
まずは、毛嫌いする食べ物を列挙してみる。
虫の類だったり、キムチだったり、ハマグリだったり、アンチョビだったり…


しかし、ここらへんを嫌ってるようじゃ、食コラムに携わる権利なし、
とばかりに、第2段階では食に関する文献を読みあさり、
人間の雑食性や、食品嫌悪症とかについて、調べてみる。
まずは、頭から好き嫌いを理解しようとする試みだ。
なかなか、こういう人はいないでしょ。


で、第3段階で食べるための対策を練り始める。
ここで最初に脳手術を検討するあたりが、さすが西洋人は違う?
飢えだとか、ごほうびのボンボンだとか、現実性のないものもまで、
真剣に検討されると、読んでいるだけで楽しくなる。
そして、結局のところ結論は〝直接体験〟となる。


というわけで第4段階になると、徹底的に食べることで、
実際に好き嫌いの克服へ乗り出す。
インド料理店のデザート以外は、何とかなったらしい。
そんなにアメリカのインド料理店のデザートって…
その後も第5段階で〝禅の境地〟にいたったり、
第6段階で、謙譲のこころを思い出したり…
いや、美食ってホントに大変なもんだな、と思い知ってみたりする。


本編突入後も、興味深いコラムは続く。
熟れた果物に対する考察では、もいだ後も甘くなる果物かどうか、
などは、とても役に立つ。
やっぱり匂いをかぐことこそが果物の善し悪しを見抜くポイントだそうだ。
ほかにも馬の脂を使ったフライドポテトとか、
〝ハインツ以上〟か〝ハインツ〟以下で分類したケチャップの考察、
バレンシアの男たちが作る(男が作らないと、いけないそうだ)本当のパエリア…
つくづく、食の世界の奥深さが伝わってくる。
食べ物に興味のある方なら、必読といってもいいコラム。
まあ、やはり翻訳物なので、多少とっつきにくいのは認めるが、
訳自体はとても読みやすいし、ハードカバーの時より、値段も持ち歩きも楽ちん。
間違えて買ったとはいえ、もう一冊買っても何の損もない、と自分を慰めたのだった。