山本一力「あかね空 (文春文庫)」
時代物が、とても面白く感じられる今日この頃。
続けて時代物に手を出してみたくなった。
で、山本一力の直木賞受賞作品に決定。
京都の老舗から独立し、江戸へ下った豆腐職人永吉と、
その妻おふみ、そしてその息子たちを描いた人情ものだ。
どこに惹かれたって、豆腐職人、というとこだ。
上方と江戸の豆腐の違いに苦しみながらも…、みたいな話、
いかにも面白そうと思ってしまうところが、いかにも食いしんぼだ。
序盤はその豆腐への徹底的なこだわりと、
同じ長屋に住む桶職人の娘、おふみとの恋がメインになる。
おふみの父とのからみなんかは、とにかく読ませる。
一気に物語の世界に引き込まれていく。まさに見事、という感じだ。
しかし、このあたりの成功物語だけではやはり小説にならないのか、
その後は、哀しくって切ない展開が待っている。
幼い時分に、おふみのちょっとした不注意がもとで、
長男・栄太郎にやけどを負わせてしまったあたりから、
成功の影につきまとう、切ないストーリーが主体になる。
栄太郎の全快を願っての願掛けをきっかけに、
おふみの家族への愛が少しずつゆがんでいく。
「もう、作らない」と誓ったはずの二男や、長女が生まれる度に、
タイミング悪く起こる不幸が、おふみのこころをゆがませる。
長男を偏愛することでしか、親の愛情を示せないおふみに、
自らのつらい幼時体験を重ね合わせる永吉は憤りを禁じ得ない。
こんな両親を見て育つ子どもたちにも、当然そのゆがみは伝わる。
その3人の子どもたちの三様の哀しみがまた切ない。
親の仕打ちに、戸惑いを隠せない子どもの姿は、
どんな小説の中で味わっても、哀切の極みを感じるしかない。
それに時代物特有の〝儚さ〟が加われば、
もう気持ちはキュウンとメランコリック一色に染まってしまう。
そう、儚いのだ。みんなコロコロ死んでいく。
容赦がない、という感じだ。
現代を舞台にしたら、ドラマ性過剰にも感じるのだろうが、
あの時代の、って生きてたわけではないが、命の儚さったらない。
その儚い一生の中で、苦しみながら生活し、
さらにさまざまな哀しい出来事に立ち向かっていく人々の姿には、
ただただ涙、という感じだ。
でも、だからこそ、人生は美しいんだな、という想いもまたひとしお。
儚くも散っていく人たちのそれぞれの人生にだけ立ってみれば、
もしかしたら美しいとかなんとか言えない気もするんだが、
そこはそれ、あくまで小説の世界だから、目をつぶることにする。
というわけで、山本一力、
これからちょっと読み続けたい作家だな、というのが本日の結論。