乃南アサ「未練―女刑事音道貴子 (新潮文庫)」

ちょうど、いい感じ♪



直木賞受賞作「凍える牙 (新潮文庫)」から続く、
〝女刑事・音道貴子〟シリーズの短編集。


今回は、これまで大きなテーマだった、男社会とのあつれきに悩む部分以上に、
世の中のやるせなさに思い悩む音道の姿が描かれる。
特に、子供がいても不思議ではない年齢を迎えた音道が、
親と子の関係について悩む、というのが、大きなテーマになっている。
表題作の「未練」では、中学生の暴行魔が、
「立川古物商殺人事件」では、タンスの引き出しで変死体になった子供が、
「山背吹く」では、覚醒剤乱用男に人質にされた子供と、その母親の苦悩が、
「聖夜まで」では、幼女へのいたずら殺人と、その加害者、そしてその親が、
音道をどうにもならない無力感においやる。
まあ、その合間にも勘違いして音道に迫るエリート気取りの公務員とかが、
音道を悩ますあたりは、おなじみの展開だったりするのだが。


小説としては、「凍える牙 (新潮文庫)」「鎖 (新潮ミステリー倶楽部)」の番外編みたいなものだから、
設定とかをうまく利用して、短くても味わい深い小説になっている。
ふだん働きづめの音道が、自宅で入浴後だらけている姿とかは、
なかなか大きなテーマの長編では細かく書ききれない部分のようで、
とてもキャラクター造型に役立っている。って当たり前か…


今回、とても気になったのは、音道行きつけのバーのオカマ・ママの安曇。
女性の親友としてゲイを用いるのは常套手段ではあるのだが、
ここらへん乃南アサのうまさで、魅力的に描き上げている。
笑わせてくれるのは、悩む音道を安曇が慰めるシーンだ。
「〝あんた、わたしだって時々、男に戻った方が楽かなあなんて思うもの〟
 〝男に戻って、どうするのよ〟
 〝若くてピチピチの女の子をつかまえてさ、結婚して、子ども産ませる〟
 〝それ、邪道じゃないの〟
 〝あら、そんなおかまだって、珍しくないんだからね〟」
 そして、貴子と安曇は互いに申し合わせたように、同じタイミングでため息をついた。
 〝おかまも疲れるでしょうね〟〝女刑事もね〟」。
ゲイの友人ならではの、癒やし、というところか。


まあ、乃南アサも微妙に古くさいところがあるから、
風紋〈上〉 (双葉文庫)」「風紋〈下〉 (双葉文庫)」 「晩鐘〈上〉」「晩鐘〈下〉」みたいな重量級だと気にならないが、
ちょっと軽快な感じの小説だと、たまに気になることもある。
が、この小説は大丈夫だ。いい感じにシリーズの雰囲気を楽しめる出来になっていると思う。
ああ、ちなみに前述の「風紋」「晩鐘」は、
犯罪加害者と被害者の家族が巻き込まれる、さまざまな影響を描いた傑作。
個人的には、乃南アサのベストだったりする。



このところ、乃南アサの小説から離れていたが、
そんなわけでひさしぶりにほかの小説も読んでみようかな、と思ったりしてみる。
そういえば「しゃぼん玉」とか、面白そうだったかも。
しかし、読みたい本はたくさんあるのに、読む時間はいつも足りない。
こうやってブログ書いてるからだ、という気もするがそれはま、しょうがないし。
ああ、ホント人生はままならない、とか書くと、ふざけすぎのようなので、このへんで…