町山智浩「USAカニバケツ」

おバカな表紙で…



まだ風邪が治りきらない。
で、お出かけできなければ、当然読書に燃えるべき。
夜のピクニック」が新年初キュン本なら、
初笑い本には、コレを指定するのがスジというものだろう。って勝手に決めた。


カニバケツといえば、中学生のころ、
そんな名前のエロマンガがあったが、これは全然別。
〝バケツに入ったカニは、お互い足を引っ張り合うから、
 ふたをしなくても逃げない〟という格言を、
チャンスの国、といわれながら、実は違うアメリカの実像にあてはめたタイトルだ。
こういうと難しいけど、ひらたくいえば、三面記事的なおもしろいお話集。
オビには「Dカップ以上の巨乳しか雇わない航空会社、
      62歳以上年上の大富豪と結婚したストリッパー…」。
航空会社は、もしかして噂の〝フーターズ・エア〟? とか思いながら、読み始める。
フーターズは、アメリカで有名なセクシー系ファミレス。
巨乳(このPCは〝巨丹生〟と変換したよ)にタンクトップ、ショートパンツのおネエちゃんがいる、
ちょっと恥ずかしくって、ヘンな感じのお店だ。でも、風俗じゃないよ。
ちなみに、以前インディアナポリスで全国警察官スポーツ大会かなんかにでっくわした時、
ダウンタウンフーターズを見たら、警官らしきたくましいアンちゃんであふれてたっけ…


もちろん、町山智浩の本だから、ただ現象だけを取り上げてるわけではない。
たとえば、コロンバイン高校の銃撃事件。〝トレンチコート・マフィア〟の真実だ。
オタクによる体育会系〝JOCKS〟への復讐との解説。
アメリカの高校での、アメフットのヒーローたちの尊大ぶりは、ニュースだけでは見えてこない。
ましてや、〝GOTH〟といわれるオタクたちの言い分、
マリリン・マンソンを事件の原因にでっち上げた、
社会の圧力のについての解説は、やっぱり読ませる。
ボウリング・フォー・コロンバイン」「エレファント」だけでは見えてこない、
アメリカの真実みたいなのが、感じられる。


また、僕が公開を待ち望んでいるベン・スティラーの新作「ドッジボール」を取り上げた一文。
アメリカのいじめっ子体質の温床となりつつある、という話も興味深い。
確かにあれ、弱い者いじめだもんな…。
不公平さでは代表的なアメフットとか、野球よりも、不公平で陰湿なスポーツかもしれない。
でも、好きだったけどね、僕は。


得意分野の映画の話ももちろん面白い。
「スパイダー・パニック」でのスカーレット・ヨハンソンのインタビューの話だ。
ガムをクチャクチャしながら、不平をたれるヨハンソン。
そこに「ゴースト・ワールド」とか、
真珠の耳飾りの少女」「ロスト・イン・トランスレーション」での繊細な少女の姿はない。
でも、笑っちゃうのは共演のデーヴィッド・アークエット(「スクリーム」シリーズ)のひとこと。
「すいませんね、躾がなってなくって」。
いや、いい人ですな。
ちなみにこの後段もなかなか笑わせる。
「しかたがない、彼女はまだガキだからね」と肩をすくめた記者に、ほかの記者が反論する。
「そうとは限らない。ジュリア・ロバーツに会ったことあるかい?」。
そのビッチぶりは、本でお楽しみ下さい。


あとはエミネムの「8mile」の解説も読ませる。
ホワイト・トラッシュならでは、の叫びを描いた名作、
そしてエミネムの登場した背景とか、これもとても興味深い。
こういうのこそ、もっとパンフレットにきっちり書き込むべき、ということが、たくさん書かれてる。
まさに、映画のサブテキストとして最高の読み物だ。
そうそう、ショウビズ・ネタではアメリカ最大の変人(世界最高?)、
マイケル・ジャクソンがらみのジョークとかも紹介されてて、とにかく笑える。
少年への性的虐待で逮捕されたマイケル。手錠をかけられていわく
〝これ、けっこう便利だね。子供用のもあるかい?〟
もう一丁。
マイケル・ジャクソンとビニール袋の共通点は?
 両方ともプラスチック製で、小さな子供の手の届かないところに置かないといけない〟。
ほかにも笑えるのが紹介されてるので、ぜひにご覧を。


こうして書いてると、単なるバカ本にしか聞こえないが、これがなかなか。
ニュースではなかなか読み取ることのできない、リアルなアメリカが見えてくる一冊だ。
実際、アメリカのテキトーな田舎に長期滞在してると、
この本が書いているようなことが、すごく実感として伝わってくる部分もある。
そういう意味でも、とても面白く読める、〝とてもアメリカな〟本だったりする。
ヘンなビジネス本読むより、勉強になりますよって勧めるのもナンだけどね…