瀬尾まいこ「幸福な食卓」

マガジンハウスを離れ、こんどは講談社



たてつづけに好きな作家さんの新作が出ちゃって、
リンダ困っちゃうんだが、それはそれで幸せなこって、って感じで。
というわけで幸福な嘱託じゃない、食卓なんだけど、
なかなかハードなお話だったりする。
ま、確かに「図書館の神様」も「天国はまだ遠く」も
ほのぼのとしたストーリー展開の割に中身はシビアだったりした。
図書館の神様天国はまだ遠く
だけど、今回は微妙にシビア度強し、だったかも。


家族の物語だ。家族構成は4人。
とってもまじめで、けっこう悩んじゃう性質の左和子。
天才的な頭脳を持ちながら、意外に普通にできない、兄の直ちゃん。
一度は自殺未遂するほど思い詰めたけど、こんど「父さんをやめる」ことにした父さん。
父さんのことで傷つき、通いの母さんになった、母さん。
4人は、どこかでつながっているけど、微妙に距離も必要なお年頃だ。
父さんが、「父さんをやめた」ことで、家族の関係はまたも揺れる。
直ちゃんも、左和子も恋してみたり、父さんは一念発起して、受験してみたり。
優しさの一方で、お互いの自立も求める、家族の行方を描いた作品だ。


もちろん、瀬尾まいこならではの、微妙な言い回しは健在だ。
父さんをやめた一連の流れの中での、おどけた言い回しにも味わいがある。
「母さんは家を出て仕事を始め、父さんは父さんを辞めて仕事を辞める」。
父さんをやめたから、当然子どもにも「弘さん」と呼ばせる父、なかなかおもしろい。
かつて、父さんが父さんだった時のルールは
「何があっても朝の食卓には4人がそろう」。なかなかハードなルールだ。
でも、「全員がそろう朝食。バランスと栄養の整ったメニュー。
    誰も破らない決まった席順」。それは「私たちを守りすぎている」のだ。
ここらあたりは、そうだよね、と納得。何でもきっちり、はかえってよくない。



そうそう、直ちゃんはかなりの変人だ。大学に行かなかった理由。
「広く深い知識? 何について? 僕は何も深く知りたくない。
 本当に知りたいことは、自分一人でだって知ることができる。
 せいぜいが千人前後の同世代の集団の中でそんなに視野が広がるとは思えない」。
そうですねぇ、ごもっともだけど、大学行くか行かないかで、そう力まんでも…
そうかと思えば、父が自殺未遂したときは、お風呂場で手首から血を流す父をよそに、
「どうして死ぬのか」を知るべく、遺書を捜しに父の部屋に向かうのだ。
ちょっと、このキャラクター造型、微妙だな、と感じたのは確か。
これまでの瀬尾まいこ作品の中の、達観した人物とはひと味違う。
でも、微妙に説教クサイのが、引っ掛かった点かもしれない。


引っ掛かった点その2。「高校生の一日は大人の十分と同じなんだって」の台詞。
高校生の一日の方が中身が濃いと思うんだけど、
大人の十分にしか相当しないのかな、と。僕は逆に思ったりもした。
大人になってからの一日は、高校生の時の十分程度にしか、中身がなかったりするような。
もちろん、意味深く生きようとはしてるし、
楽しいこと、意味深いこともたくさんあるけど、
仕事の時間と授業の時間だったら、間違いなく授業の時間の方が、濃く生きてたかな。


そんな部分で珍しく引っ掛かり気味に読み進んだこの作品。
最後の方は、正直あまり好きになれない部分もあった。
そういうこと、必要あるの、と思うようなストーリー展開だったりする。
ドラマチックを狙いすぎた感あり、といったら失礼かな。
でも、僕的にはそんなことしなくても、いい話だと思うのに、とやや不満。
何が不満って、ここで書くわけにいかないのが、苦しいトコだけど。


まあ、そんなこんなで書いてしまったが、それも瀬尾まいこだからこそ、の厳しさ。
クオリティは凡百の小説を軽く、テイクオーバーするレベルだ。
だから、ぜひ読んでほしいな、とは思う。
読んだ上で、厳しく批評してほしいな、とも。
傑作を生み出した作家さんなんだから、また、と勝手に期待するのは、ファンの権利。
頑張ってくださいね、のエールを込めて偉そうに書いてみた。
だったら、自分で書いてみろ、とはいわないであげて。
書けないから、ここでこうしてレビューに明け暮れてるわけで。
以上、言い訳がましいから、本日はここまで。お粗末様でした。ちゃんちゃん♪