大泉りか「ファック・ミー・テンダー」

講談社刊、1400円



この作家さんも、初めて聞く名前。
このタイトル。いや、ファック・ミーっていわれても。ああ、優しく、ね。
表紙の女のコは、中指立ててるし…
よくわからないので、ちょっと検索してみた。サイト「フシダラな果実」はこちら
http://home.att.ne.jp/apple/rika/index.html
これでも、何だかよくわからないが、ここ↓のメンバーらしい。
「脱ぎアリレズありチンコアリ。エロユニット、ピンクローターズ」
いやすごいね、まったく… よけいよくわからない状態になった。
http://home.att.ne.jp/apple/rika/pink/index.html


主役は二人の女子大生。
ミキは「ウリもあり」の高級キャバクラ嬢
リカはロリコン系のヌードモデル。
これまでの生活に違和感を感じていた二人は、
引き込まれるように夜の、そして裏の世界に入り込んで行く。


もともとが、けっこう刺激的なモチーフな上、ちょっと実録ものっぽい、どぎつい描写。
だからといって、おミズの世界に墜ちていく、とかいうネガティブな要素はない。
もちろん、そちらの世界だから、悪いオトコたちは、掃いて捨てるほどいる。
ただ単に若さを利用されるだけ、だったり、だまされて痛い目にあってみたり。
世間一般の杓子定規な基準でいえば、二人は墜ちていってる、墜ちまくっている。
でも、あまり落ち込んだりはしないし、〝墜ちていくわたし〟に自己陶酔するでもない。


体を売ろうが、裸を売ろうが、別に変わったことをしている本人たちには意識はない。
事実、特別変わっていることしているわけではないから、そう考える必要もないが、
当然、周囲は〝特別変わっていること〟をしているんだ、と意識させようとするから、
なかなか、平常心を保つのも、大変な作業なんではないかと思う。
ま、そこらへんに苦悩とかないのは、作者の思想も大いに影響してそうだ。
サイトとか見る限り、そういう悩みとは無関係そうだし、
そういう悩みを持つことすら、プライドにかかわる、みたいな雰囲気も感じる。


風俗嬢を主人公にした小説だと、菜摘ひかるの「依存姫」が印象的だった。
どうやっても満たされないわたし、を私小説風に描いていて、
ものすごく乾いた感じの哀しさや切なさは、
グッと胸に迫るものがある一方、一種のさわやかさも感じられて、不思議な小説だった。

依存姫

依存姫


こちらはその点、騙されても、痛い目にあってもたくましい二人の女のコが、
ある意味で共感を呼ぶし、ある意味で現実感を損なわせる。
日常の違和感に溺れそうになってたリカは、ヌードモデルの仕事を通じて、
〝人に受け入れられる実感〟を得て、立ち直っていく。
同僚のキャバクラ嬢に嵌められ、オトコたちに拉致られたミキも、
傷つけられ、立ち直っていく過程で、自分という人間の価値を再発見する。
ううん、常識的な物言いになっちゃうけど、ホントにそれでだいじょぶ?
という感じは、やはり否めない。もちろん、物語としては自然な流れに感じるんだけどね。


そんな感じで、風俗の世界を特殊なもの、ととらえてないので、
たまに出てくる常識的な物差しは、かえって不自然に感じられるのがけっこう興味深いかも。
就職先や、親バレの際の、リカの父親の反応なんか、陳腐そのものだ。
ここらへんの、常識への挑戦、という部分も意識されているんだろう。


そうそう、ちょっと思ったこと。
風俗の世界って、遅刻の罰金とか多いんだな、とけっこうふむふむ。
そういう型にはまったことがイヤで、その世界に足を踏み入れる人もいるのか、
と思ってたけど、やたらと厳しいし、ヘンなルールが多い。
社会不適格者の集団みたいな業界にいる僕なんか、
絶対に通用しなさそうだな、とあらためて実感。
つくづく、自分のつぶしのきかなさ、を思わぬトコで思い知らされてしまった。