森奈津子「姫百合たちの放課後 (Book of dreams)」
この人の小説は〝官能百合コメディ〟に属するんだろうか。
比較的分類が微妙かもしれない。
いわゆるゲイのセクシュアリティの人向けに見られがちだ。
著者自体はバイセクシュアルを公言している、
というか、著者あとがきにも書いている。
ちなみにきょうのblogのタイトルに書いた〝倒錯〟は、
ゲイのことを指している訳じゃないので、誤解なきよう。
題材として、もちろんレズビアンというセクシュアリティが前面に押し出されている。
ま、官能コメディだから、当然なのだが、だからといって、
「わたしたちの世界は私たちだけのものよ。私たちの愛こそ至高なの」的な、
隔絶感みたいなものは、まったくにおってこない。すごく自由だ。
非常に達観しているというか、ヘンなこだわりみたいなのが感じられない。
だから、ヘテロセクシュアルの僕にとっても、普通に楽しめる小説になっている。
そこらへん、中山可穂なんかと一線を画するかな。
まあ、あの人は「理解されない自分たち」がむしろ好きなんだろうけど。
その点、森奈津子は、ゲイをバカにするでもなし、ヘテロを拒絶するでもなし、
とても、バランスが取れた、いい小説を書く作家さんだな、と思う。
だからといって、セクシュアリティについての深い考察だとか、
そんなのを求めて読むような哲学的な小説ではない。
とにかくふざけてて、バカバカしくって、笑える。電車の中で読まない方がいい。
かなりまずい事態になること、請け合いだ。
でも、ぜひ、みなさんに読んで欲しいのでお勧めはしちゃう。
まずは「西城秀樹のおかげです」
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たぶん、この人の最高傑作じゃないか、と。
表題作を始め、とにかくアホらしくて、でも引きずり込まれる倒錯の世界。
「笑いとエロスの天災作家」とのキャッチコピーは、うむ、納得って感じだ。
こんど、早川で文庫化されるらしい。ぜひに読んで。
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あとは連作コメディ「耽美なわしら」や性愛SF「からくりアンモラル」。
「からくり〜」の方は、ポルノっぽさの方が勝ってるけど、SFとしても面白い作品だ。
と、長々と森奈津子の紹介をしてしまったが、「姫百合〜」もなかなかの作品だ。
長い間〝積ん読〟にしといて、申し訳ない、という感じ。
かつて吉屋信子が作り出した〝エス〟(Sister)の世界を、
独特のギャグテイストと、官能的な世界観で描いてみせる。
ひらたくいうと、ポルノ版吉屋信子? ってトコなんだろうか。
三島由紀夫の「仮面の告白」をもじった「お面の告白」や、
団鬼六の「花と蛇」をもじった「花と指」とか、タイトルだけでも笑わせる。
まあ、何しろ題材としては〝エス〟+性愛の世界なんで、
レズビアンへの目覚め、をプロットにしたものが多い。
女学校(!)の生徒に目覚めさせられる教師がいれば、
ある時は先輩に、ある時は後輩に、そしてある時はまた、スケ番(!)がお嬢に…
まあ、本当にもうこのコったら、いけないことばかり考えて、とニヤリとする。
この短編集でもっともバカバカしいのが「花と指」だろうか。
これまでセックス以上に隠ぺいされてきたオナニーが、スポーツと認識された近未来。
「自慰道」(!)と名付けられたそれは、
日本発祥の競技として柔道と並ぶオリンピック種目になっている。
愛好家は「熱い息と共に、汗その他もろもろの体液をさわやかに流しているのであった」。
…あの、アホですか?
この後もストーリーはひたすらアホを極めていく。
当然スポーツなんで、クライマックスは〝大会〟だ。すんなよ、そんなもの。
その上、〝エス〟が当然入ってくるので、
憧れの美しい先輩と、容姿は平凡だがテクニックは最高の後輩の愛が描かれる。
大会直前、右手を痛めた先輩を助けるため、大技〝二人羽織〟が試みられる。
…あの、それ自慰と違うんじゃないかと。
大会についての説明もあるんだが、審査は男女10名ずつの計10名、
心拍数、脳波、性器の充血度などを検出し、「興奮度」を算出するんだと。
いや、もうなんといったらいいのか…
ちなみに「審査方法は、男子自慰道と同じだ」と書いてある。
男子もあるんかい。やめてくれ。
もう、こうやって紹介してると、僕も同類かと思われそうだな。
ホラーやサスペンスを読む人が、怪物や殺人犯でないのと同様、
僕はぜんぜん平凡な人間なので、お間違いなく。
でも、こんな小説、喜んで読んでいること自体、アホだというのは確かかも。
お後はあんまりよろしくないけど、きりがないので、きょうはこのへんで…