ジェフリー・ディーヴァー「魔術師 (イリュージョニスト)」

魔術師 (イリュージョニスト)

魔術師 (イリュージョニスト)

最新の鑑識技術で、複雑な怪事件を捜査する、全身麻痺の犯罪科学者、
リンカーン・ライムのシリーズ最新作。
原題は〝Vanished Man〟(消された男)。
神出鬼没のマジックで捜査を攪乱する連続殺人鬼を相手に、
リンカーン・ライムとそのパートナー、アメリア・サックスの推理がさえ渡る。
今回は才能あふれる若手マジシャンのカーラも加わり、
超一流マジシャンの犯人に立ち向かう。


マジックを構成する2つの要素、メソッド(手法)とエフェクト(効果)。
そのメソッドの一つとして、ミスディレクション(誤導)が多用されている。
ミスディレクションといえば、ジョン・トラヴォルタヒュー・ジャックマン
ソードフィッシュ」でやたらと強調されていた技法だ。

ソードフィッシュ 特別版 [DVD]

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観客の目を、あらぬ方向に引きつけ、マジックのカラクリを隠す。
もちろん、ディーヴァーといえば、二転三転するどんでん返しが持ち味。
そう、シリーズ第2作「コフィン・ダンサー」の味わいをさらに濃くした感じだ。
コフィン・ダンサー

コフィン・ダンサー

巻末の解説で、法月綸太郎が書いてたので、けっこう悔しかったのだが、
この犯人のイリュージョニスト、ある意味ディーヴァー自身なのでは、と強く感じた。


でも、二転三転の展開もシリーズ5作目。
小説の出来は信頼できても、ストーリーの流れは信用できない「ディーヴァー節」。
信用していいのは、本の残りページだけ、などと思っていたら、
下手すると残り数ページで騙されたりするのだから、油断ならない。
でももう、いいかげんこちらも慣れてるのも確かだ。
この登場人物、本当は…、とか、こういう展開が一番怪しいんだよな…、
などということを常に考えながら、読み進めていく。
裏の裏の裏を読む、みたいなことが、ある意味マンネリ化したシリーズでもある。


ただ、この作家のすごいところは、それでも読ませるところだ。
正直、第1作の「ボーン・コレクター」や、
前述の「コフィン・ダンサー」のような鮮烈さは、もう感じられない。

ボーン・コレクター

ボーン・コレクター

でも、やっぱり興奮するのだ。
騙されるとわかっているから、用心しているのに、
またミスディレクションに引っ掛かる。一流の魔術師さながらのそのテクニック。
いや、確かにそりゃあざといよ、と思うこともあるのだが、
それでも、ページをめくる手は決して止まることはない。
個人的なディーヴァーのベストは、実は「静寂の叫び」だったりするのだが、
静寂の叫び (Hayakawa novels)

静寂の叫び (Hayakawa novels)

やはり、このシリーズには抗いがたい魅力がある。
読み終わったばかりだが、早く続きが読みたい。
その想いに強く駆られながら、本を閉じたのでありました、マル、ということで。