D・W・バッファ「遺産 (文春文庫)」
- 作者: D.W.バッファ,D.W. Buffa,二宮磬
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/10/08
- メディア: 文庫
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「弁護」「訴追」「審判」。シンプルなタイトルは原題も同じ。
リチャード・ノース・パタースンとか、スコット・トゥローとかと比べると、
スケール感でこそ微妙に劣る感は否めないけど、
リーガル・スリラーとしての味わいでは決して負けていない。
アントネッリも無敗の弁護士、が触れ込みだけど、別に勝利至上主義じゃない。
シリーズ第1作の「弁護」は、
その無敗ぶりそのものに焦点が当てられていて、深い味わいのある作品だった。
訳はどの作品も、二宮磬が担当していて読みやすいので、自信を持ってお勧めできる。
で、今回の作品。きょうのタイトルにも書いたけど、
舞台はこれまでのポートランド、オレゴンからサンフランシスコに移った。
先日「ツイステッド」もそうだったが、サンフランシスコが舞台だと、
それだけで、何だかすごく気持ちが乗ってくる。
だが、なのだ。今回の〝アントネッリ〟に限っては…
今回アントネッリが担当するのは、将来の大統領候補とも目される、上院議員の殺害事件。
容疑者は、黒人の医学生。だが、事件の背後には、巨大な陰謀が見え隠れする。
無敗の弁護士、アントネッリは、政治に巻き込まれながらも、真相に迫っていく。
パタースンの最新作「ダーク・レディ〈上〉 (新潮文庫)」「ダーク・レディ〈下〉 (新潮文庫)」でもそうだったんが、
こういう法廷サスペンス兼政治サスペンスっぽいの、トレンドなんだろうか?
もちろん、法廷サスペンスに、政治が関わるのは承知の上だ。
三権分立? そんなの、ホントにあるんだろうか?
政治的な動き抜きに、裁判の動向は見えてこないのは、現実的に避けられないと思う。
だが、法廷にまつわる描写よりも、政治的な動きが作品のメインになってくると、
サスペンスとしては微妙に味わいが変わってくる。
特に今回は元KGBとおぼしきロシア人なんかも出てきて、
もう、気分は半分ジョン・ルカレって感じもしてくる。困ったモンだな。
後半に入って、ようやく法廷シーンになると、気分は俄然盛り上がってくるんだけど、
やっぱり、前半の弛みが響いて、いまいち乗り切れなかったのも確かだ。
全然法廷シーンのない「ダーク・レディ」よりは、いいんだが、やはり不満は残る。
原書は2002年作品。
ブッシュとかのせいで、選挙や政治に対する意識が高まっているのが、原因なんだろうか。
しかしなぁ、ポリティカル・サスペンスとリーガル・サスペンスの区分はちゃんとして欲しい。
やっぱり、リーガルものは、陪審員選出でも何でもいいけど、
法廷でのやりとりこそが、一番のハイライトであり、クライマックスであって欲しい。
政治的な動きとか、ほかのものが、最後の決め手になっちゃうようでは…、ね。
次に読む予定のディーヴァー「魔術師 (イリュージョニスト)」に気持ちが動いていた自分もわるかったけど、
正直、これまで3作から比べると、失望感が強い作品だった。
そう、サンフランシスコの描写はたくさんあったにも関わらず、だ。
ううん、ホントうまくいかないもんだ。