ボンクラ兄弟が輝く? 恋愛小説

表紙はいまいちかも…

きょうから福岡出張。昼間、ヒマができたので、天神のジュンク堂書店をのぞく。
ひさびさに本屋に行くと、気になる新刊がやまほど出てる。
きょう買ったのは、

買いすぎだ。もともと5冊くらい持ってきてるのに。
「どうやって持って帰るか、考えて買うようにね」と自分に向けて注意するが、
いつも通り右の耳から左の耳へ素通り。子供の頃から同じことを繰り返してるかも。
で、江國香織から読み始める。理由特になし。


オビには「〝そもそも範疇外、ありえない〟男たちをめぐる恋愛小説」とある。
なかなかわかりやすい説明だ。
明信と徹信は、35歳と32歳の兄弟二人暮らし。
「格好悪い、気持ち悪い、おたくっぽい、むさ苦しい」。いわゆるイケてないオトコたちだ。
当然もてない。心の平安を保つただひとつの道は「もう女の尻は追わない」。
だが、この二人に突如訪れる、恋の予感。安全地帯と違うよ。
ビデオ屋の店員、直美ちゃん。その妹、夕美ちゃん。
徹信が校務員を務める小学校の教諭、依子。
明信の務める酒造メーカーの先輩の奥さん、沙織…
二人の「安定した暮らし」に微妙な波が立ち始める。


この二人、気立てのいい人間であることは、間違いない。
いいところもたくさんある。
親は当たり前かもしれないが、二人はよく知る人は温かい目で見守っている。
でも、いわゆるボンクラだ。前述したが、おたくっぽい。
生涯を通じて女っ気なし。今後の希望も微妙。
むろん自覚はある。明信なんて、弟から依子を紹介されそうになると、
「葛原依子なんていう綺麗な名前の女が、俺を好きになるはずがない」。
すごい言い草。だけど、何だか説得力がある。ないか…
さすが、「もてないのは、兄弟共通の歴史」というだけあるな。


こんな二人に対し、女のコは当然、誘われても恋愛対象として考えない。
むしろ、不思議な安らぎを覚えちゃったりしてる。動物と同じ感覚。
しかし、ボンクラどもの恋心は暴走する。
デートに誘ってみたり、思い詰めて言い寄ってみたり。
ひと言でいえば、「勘違いちゃん」。その描写は痛い、ひたすら痛い。
なまじっかの希望が、どれだけ残酷か、というのがひしひしと伝わってくる。


じゃあ、こんな小説つまんないじゃん、と思うところだが、不思議なくらい読ませる。
直美や依子、沙織たちの恋愛模様が、
間宮兄弟」というフィルターを通すことで、より具象化した形で見えてくのだ。
直美は、出会った頃のときめきが消えつつある恋人との関係を憂い、
依子は、終わりかけた恋に、心の整理をつけようとする。
沙織は、愛が冷めた夫が申し入れてきた離婚に思い悩む。
当然、眼中にない間宮兄弟のアクションに困惑するのだが、
それでいて、兄弟との関わりで何かの答えを手にする。


読み終わって、不思議な感触の心地よさが残る。
江國香織一流のビタースウィート感に、さらにアクセントがついた感じだ。
オビにもあるが、
直美との会話の中で、「こうして一緒にいられるのも、いまのうちだね」といわれた夕美が、
「だって、間宮兄弟を見てごらんよ。いまだに一緒に遊んでるじゃん」。
夕美は、間宮兄弟の姿に、ある種の理想像を感じている。
そこらヘンにいると、ちょっと気持ち悪い気もするんだが、
何だか、捨て置けないような魅力を持った兄弟の話なのだ。
でも、間宮兄弟みたいになりたいか、と訊かれたら?
そりゃ、勘弁して下さい。ヤです、もちろん。
あくまで、小説の中だけ、ということで。