クライマックス不在に衝撃

オリジナルの表紙♪

待望のリチャード・ノース・パタースン最新作「ダーク・レディ」だ。
新潮文庫で上下巻。ISBN:4102160159 ISBN:4102160167
あっ、ちなみに画像は洋書のハードカバーですが、
僕の語学力ではよう読みまへん。


待望といいつつ、発売告知から、
「いきなり文庫なんだよな」という不安ぬぐえず。
?サスペンスの巨匠の最高傑作、文庫オリジナルで登場!?ってなってるけど、
ホントに、巨匠の最高傑作だったら、文庫オリジナルで出さないでしょ(笑)
まあ、トマス・ハリスの「ハンニバル」や、
スティーヴン・キングの「アトランティスのこころ」みたいな例もないではないけど、
少なくとも、どちらの作品も最高傑作でないことは確かだからな…。


パタースンといえば、「推定無罪」「立証責任」のスコット・トゥローと並ぶ、
法廷サスペンスの第一人者といっていいだろう。
いや、ジョン・グリシャムとか、スティーヴ・マルティニもいいけど、
読み応え、というか、スケールというか、やはり格が違う(と思う)。
推定無罪 (上) (文春文庫) 推定無罪 (下) (文春文庫) 立証責任〈上〉 (文春文庫) 立証責任〈下〉 (文春文庫)


パタースンだと、一番のお勧めは「罪の段階」とその続編「子供の眼」。
テレビ・レポーターに対する、有名作家のレイプ未遂、
そして殺人をめぐる裁判の駆け引きを描いた、スリルとサスペンスにあふれた傑作だ。
その2編で判事を務めたキャロライン・マスターズを主役にしたスピンオフ、
最後の審判」もちょっと系統は違うが、悪くない作品だ。
罪の段階〈上〉 (新潮文庫) 罪の段階〈下〉 (新潮文庫)
子供の眼〈上〉 (新潮文庫) 子供の眼〈下〉 (新潮文庫) 最後の審判
ちなみに、この「ダーク・レディ」は、
「サイレント・スクリーン」「サイレント・ゲーム」からのスピンオフ。
こちらは弁護士トニー・ロードが主役。
「〜スクリーン」はサンフランシスコの新聞王と、
ロックスター、ステイシーのマネジャーがからんだ誘拐事件。
「〜ゲーム」はロードの高校時代の事件が、現代に甦る追憶のドラマ。
どれも、法廷内外の迫力ある描写が、魅力の作品ばかりだ。
サイレント・スクリーン〈上〉 (扶桑社ミステリー) サイレント・スクリーン〈下〉 (扶桑社ミステリー) サイレント・ゲーム

で、今回は「サイレント・ゲーム」で好敵手を演じた、
女性検事補、ステラ・マーズが主役となる。
オハイオ州クリーヴランドをモデルにしたような、
さびれつつある中西部の鉄鋼町・スティールトン。
地元経済の活性化と、雇用の充実などを掲げた新球場建設が持ち上がる。
次期市長選での争点となる、この問題が次期検事を狙うステラにも、降りかかる。
そんな時、その関係者が次々と不審な死を遂げる。
被害者の一人は、ステラの元恋人の悪徳弁護士。
張り巡らされた、政治的駆け引きと陰謀の中で、ステラの奮闘が始まる、という展開。


法廷サスペンスとしては、なかなか面白そうなプロット。だと思ってた。
だが、とんでもない思い違いをしていたようだ。
どんなに読み進めても、クライマックスの法廷シーンが出てこない。
やられた…。
この小説、法廷サスペンスではなく、単なる政治サスペンス&ミステリーなのだ。
あっ、ばらして申し訳ないが、
法廷シーンを期待して読むとがっかりするので、勇気を出してネタバレさせてもらった。


もちろん、法廷シーンの番外編を描いた法廷サスペンスだってもちろんある。
たとえば、「ニューオーリンズ・トライアル」として映画化もされた、
ジョン・グリシャムの「陪審評決」は、
陪審員選出や、その裏工作をつかさどる陪審コンサルタントの暗躍を描いた傑作だ。
ニューオーリンズ・トライアル/陪審評決 プレミアム・エディション [DVD] 陪審評決〈上〉 (新潮文庫) 陪審評決〈下〉 (新潮文庫)
だけど、この「ダーク・レディ」はもう、全然違うのだ。
法廷シーン、ゼロ。司法取引のシーンすらない。
ただただ、殺人事件の捜査を、検事補がやっているだけなのだ。


それでも、作品自体の力があれば、何の問題もないんだが、
どうにも切れはあまりよくない。
個人的に絶対に許せないポイントもあるし。
もちろん、退屈はさせないんだが、ほかの傑作群と比べると、明らかに落ちる。
パタースンのファンとしては、
この作品でこの作家を価値判断する読者がいないことを祈るばかりだ。