宇江佐真理「八丁堀喰い物草紙 江戸前でもなし 卵のふわふわ」

mike-cat2004-08-05



タイトル長いな…、と思いつつ「卵のふわふわ」に惹かれた。
宇江佐真理はこれまで何となく手を出していなかったがというか、時代物は初心者)、即買いの即読み。


しかし、芦原すなおの「みみずくとオリーブ」「嫁洗い池」みたいな、
お料理マインドを重視した連作か、と思ったら、やや違う。
ミミズクとオリーブ (創元推理文庫) 嫁洗い池 (創元推理文庫)
お料理をモチーフに、お江戸の風情と、人情と、人間ドラマを描く、みたいな。
連作のタイトルは「秘伝 黄身返し卵」とか
「美艶 淡雪豆腐」「珍味 ちょろぎ」などなど


主人公は同心の一家に嫁いだのぶ。
心の傷が癒えず、のぶに冷たい態度を取る夫の正一郎。
舅&姑は隠居目前の同心・忠右衛門と、秘密の過去を持つふで。


アタマは切れるが、いいかげんで横着、食いしん坊ですっとぼけた忠右衛門が、
比較的定番の人物造形でありつつも、味わい深い。
うまくいかない、のぶと正一郎の夫婦関係を軸に、繰り広げられる人間模様、
と書くとあんまり面白くなさそうだな…


黄身返し卵」は
「とどのつまり、人って生き物はへそ曲がりなんだよ」になったり、
「淡雪豆腐」は
「あこがれ続けているものを実際手にしてみると、案外つまらないと思うものです」
となったり。こんな感じで、何かの喩えとして、料理が登場する。
ということで、面白いと納得してもらえればいいけど…


ちなみに「淡雪豆腐」は「にがりを打たない」そうだが、
それは豆乳じゃないかな、と疑問。
たぶん、ざる豆腐みたいに、重石をかけて水を切る、
という作業が入らないだけでは、と…


それはともかく、
序盤は、昔ながらの舅・姑・夫・嫁の役割的な描写部分に、どうしても乗り切れない。ちょうどその直前に読んでいた東野圭吾「片想い」が、
トランスジェンダートランスセクシャルにまつわる、
アイデンティティの問題を取り上げていたので、当初は違和感。
(それは勝手な、自分の事情)


まあ、こういう違和感というのは、
小説の価値観と、自分の価値観を共有できないと、小説が楽しめないか、
もしくは小説は小説として、自分にとって「架空の」価値観で読むことができるか、
にあると思うので、僕は読んでいくうちに解消。
もちろん、現実世界の問題として出てきたら、対応はまったく別にはなるが…


だから、嫁に冷たい正一郎に関しては、小説としては読めるけど、
実際問題では、全然不許可、かな。
惚れて、将来を誓い合った女性に「貧乏暮らしはもうたくさん」と、
去られてしまったのは、かなりきっついけど、
まあお嫁さん悪くないからな。ちゃんと区別しろよ、と。


とまあ、こんなことを考えながら、東北新幹線「はやて」とやらで、帰京。
新幹線車内で、切ない気持ちをこらえながら読むのは、やや辛い。
以前で浅田次郎「天国までの100マイル」を読んだ大失敗(号泣)みたいなことは、避けられたが、泣きそうな切ない表情で、本に夢中になってる30オトコ。いやかも…


そうそう、仙台駅では、牛タン通りの奥に、寿司屋さん通りも発見。
カウンターのみ、立ち食いの寿司屋を発見し、ちょびっとつまむ。
炙りサワラ、しめ鯖、釣りきんき(一本釣り?)、サンマ、子持ちしゃこ…
ああ、おいしかった、で終わると単に自慢になっちゃう(ならないか、ネタ安いし…)ので、もう少し。


もともと江戸前の握り寿司って、
銭湯の帰りとかにちょいちょいとつまむ、ざっけない食べ物だったと、
ものの本で読んだことがある。(これだとうんちくご披露みたい?)
何か、寿司というと高級店に行きたくなる(ところが僕のバカなところ)けど、
こういう感じが、本来の食べ方なんだな、などと変な感慨。
そうして考えると、回転ずしって案外、
お寿司の本道のような気もちょっとしてきたな。

あ、とりあえず、お味はなかなかでござんした♪