飯田橋ギンレイホールで「エンジェル」

mike-cat2008-02-27



“わたしが書いた甘い人生に、
運命がしかけたビターな罠”
「焼け石に水」「8人の女たち」の、
フランソワ・オゾンが挑む初の全編英語作品。
主演は「ダンシング・ハバナ」
「つぐない」ロモーラ・ガライ
共演に「オーメン/最後の闘争」「ピアノ・レッスン」サム・ニール
「まぼろし」「スイミング・プール」シャーロット・ランプリング


 20世紀初頭の英国。
上流階級に憧れる惣菜屋の娘エンジェル・デヴェレルは、
夢見がちでわがまま、傲岸不遜な嫌われ者。
その夢を小説に綴ることで、エンジェルの毎日は満たされていた。
その執念にも似た情熱が通じたのか、ロンドンの出版社が小説の出版を決意。
16歳のデビュー作「レディ・イレニア」は大ヒット。
一躍時代の寵児となったエンジェルは、ついに夢の生活を手に入れたのだったが…


ハーレクインも真っ青になるようなクドさの
甘いサクセスストーリーが描かれる前半は、なかなか強烈。
大時代的で、オールドファッションなロマンスが、スクリーンに花開く。
みっともないくらいに上昇志向のエンジェルは、
もう貧乏くさいを通り越して、憎めない域にまで昇華していて、
一種のコメディとしても楽しむことができる。


だが、この映画の真骨頂は、その成功に影が差す後半だ。
夢にまで見た暮らしが、音を立てて崩壊していく、その退廃の美。
パトリス・ルコント「タンデム」「仕立屋の恋」を手がけたドニ・ルノワール撮影による映像は、
エンジェルが過ごした屋敷「パラダイス・ハウス」が、
寂れていく様を映すときに、その魅力を最大限に発揮する。
そして、オゾンの演出も、まるで魔女のようになっていくエンジェルを、
それでいて愛情を持って描いていくことで、観る者に不思議な余韻を残す。


エンジェルを演じたガライの強烈な演技もさることながら、
脇を固めるサム・ニールシャーロット・ランプリングらも、
きっちりと効いていて、観ていて重厚な感じがする佳作だと思う。
惜しむらくは、小品のよさを徹底的に追求したわけでもないのに、
作品そのもののスケール感がどこか物足りない。
まずまず面白いのに、どこか中途半端で印象の薄さが気にかかった。