新中野のジャズバー「いぶき」で朗読劇「fake」

mike-cat2008-02-24



“記憶は、嘘をつく”
MIDORI presents 『読むドラマ』vol.1「fake フェイク」は、
元フジテレビアナウンサー、松井みどりのプロデュース、主演による朗読劇。
共演はキム木村。
ウッド・ベースとのコラボレーションでおくる新しい試み。
脚本は「ZIPANGU Stage」の今石千秋


佐伯和海は、画家への夢が捨てきれない耳鼻科医。
夫に嘘をつき、避暑地の友人の別荘を借りて作品製作に講じる。
だが、留守中の精神分析医の友人のもとを、盲目の男が訪ねてくる。
困惑する和海に構わず、診察を行うよう要求する男。
見よう見まねで診察を始めた和海だったが―


精神分析医と患者。
診察のセッションが続く中で、いつしかお互いの立場が入れ替わっていく―
比較的定番の設定だが、くるくると入れ替わる力関係がなかなか楽しい。
盲目の男の抱える秘密を探るうちに、明かされていく和海の胸の内。
サスペンスでありながら、状況そのものがどこかコミカルで、
不思議な緊張感が物語を支配するあたりが、何とも面白い。


朗読×ウッドベース、という試みも、一興だ。
読む、ということだけで、
ここまで物語世界が膨らませることができるのか、と感心させられる。
実は「信用できない語り手」たるナレーションと、和海の心情。
そこかしこに散りばめられた嘘は、
音のみで表現される世界だからこそ、また一層深みを増す。


もったいないな、と思ったのは、
ところどころで差しはさまれる、コメディタッチのダイアローグ。
状況そのものがコメディになっているのだから、
シリアスな会話だけで押し通しても、十分に可笑しいのである。
だから、わざわざ小細工っぽい部分を加えることで、
全体のバランスが欠けていってしまうような印象もあった。


それでも、1時間半があっという間に過ぎていく、独特の楽しい空間。
表現のジャンルに縛られない、ドラマを感じられる、そんな上演だった。