恵比寿ガーデンシネマで「君のためなら千回でも」
“この誓いは今、
君に届くだろうか。”
カーレド・ホッセイニによるベストセラー原作を、
「チョコレート」、「ネバーランド」のマーク・フォースターが映画化。
脚本は「25時」、「トロイ」のデヴィッド・ベニオフ。
撮影はフォースター作品すべてを手がけたロベルト・シェイファー。
主演は「ユナイテッド93」でハイジャッカーを演じたハリド・アブダラ。
ほかに「クラッシュ」でイラン人商店主を演じたショーン・トーブら。
物語の始まりは2000年のサンフランシスコ。
処女小説が出版されたばかりのアフガニスタン系青年アミールは、
ある日、父の親友でもあったラヒム・ハーンからの電話を受ける。
少年時代を過ごした、ソ連によるアフガン侵攻前の故郷のカブールに思いをはせるアミール。
少年時代の忘れられない思い出が、再びアミールを故郷に呼び戻す―
原題は、かつてのカブールで盛んに行われていた凧合戦で、
糸が切れて飛ばされていく凧を追う“THE KITE RUNNER”から来ている。
少年時代のアミールの家に仕えていた召使いの息子で、
アミールのたったひとりの親友だったハッサンとともに凧合戦に臨んだ日々。
新疆ウイグル地区に再現された、ソ連侵攻前のカブール上空を凧が舞う光景は、
それだけでもう、涙が止まらなくなるような、幻想的な美しさを醸し出す。
そこに描き出されるドラマも秀逸だ。
支配階級でもあったパシュトゥーン人のアミールと、
被支配階級のハザラ人のハッサンの間の、固い友情と卑劣な裏切り…
「チョコレート」「ネバーランド」では哀切極まるドラマを、
「主人公は僕だった」では、不条理ささえ漂うペーソスあふれるコメディを、
「ステイ」では、独特の映像感覚を用いたサスペンスを描いたフォースターは、
この作品でも抜群の手腕で、観る者の涙のツボをビシビシと突いてくる。
ベニオフの脚本も、いくらか内容を盛り込みすぎ、強引な感は否めないが、
それでもひとつひとつの場面そのものは、とても美しく、そして哀しい。
アミール役のハリド・アブダラは、
「ユナイテッド93」で見せた哀しみをたたえた目が今回も生きている。
父ババを演じたイラン人俳優ホマユン・エルシャディも、
非常に立派な人物なのに、なぜか息子を素直に愛せない哀しさが伝わってくる。
何よりも素晴らしいのは、ハッサン少年を演じたアフマド・ハーン・マフムードザダだろう。
無邪気な笑顔、哀しみの表情、そして「君のためなら千回でも」のセリフ…
どれを取っても、天才としか表現しようがない、すばらしい演技だと思う。
脚本のところでも触れたが、全体的なまとまりとしては、微妙に破綻はしている。
だが、全編を通じて涙が止まるヒマのない、とてもエモーショナルな佳作。
もちろん、いわゆるハリウッド映画的な文脈とは大きく違うし、
フォースター作品ということで、アジアを舞台にした作品が、
ちょっと苦手だという向きにも、自信を持ってお勧めできる逸品だろう。