TOHOシネマズなんばで「グラインドハウス」米公開版

mike-cat2007-08-30



タランティーノ×ロドリゲスによる、
映画バカの熱いハート直撃の2本立て。
6、70年代、エロ、グロ、ナンセンスにバイオレンスを詰め込んだ、
B級どころかC級のエクスプロイテーション映画を、
2本立て、3本立てで上映していた場末の映画館「グラインドハウス」。
グラインドハウス」に少年時代、洗礼を受けたタランティーノが、
その永遠のノスタルジーに、オマージュを捧げた一大プロジェクト。
映画を弁護士や会計士から、映画バカに取り返す、最高のバカ映画である。


プログラムは、時代の雰囲気をそのまま伝える、
チープでキャッチーな煽り文句にあふれたフェイク予告編4編と、
ロバート・ロドリゲスプラネット・テラー」、
クエンティン・タランティーノデス・プルーフ」の2本立て。


プラネット・テラー」は、
軍の施設から漏れ出た謎の化学兵器が、
街に恐怖と破滅をもたらす、いわゆるゾンビ系っぽい映画。
ローズ・マッゴーワン演じるヒロインの脚にマシンガンという、
最高にキッチュなアイデアに、ひたすら派手さを追求した俗っぽいアクション、
グログロドロドロの怪物たちの描写が、何ともいえずそれっぽい。
俳優として登場するタランティーノが、また喜々として演じるドロドロもいい。
主人公エル・レイの不自然な強さや、女医役のマーリー・シェルトンのエロさなどなど、
B級、C級テイストを魂の底から感じさせてくれるような、クールなかっ飛び映画である。


デス・プルーフ」は、
〝耐死仕様〟を施したダッジ・チャージャーを駆るスタントマンが、
次々と若い女に襲いかかる、というカーアクション映画の極北ともいえる。
こちらは映画の中にも登場する、「バニシング・ポイント」や、
「ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー」への憧憬を存分につぎ込んだ、お好きなヒトにはたまらない1本。
タランティーノにとって永遠の女神である、パム・グリアーも、
「女体拷問鬼看守パム」
フッテージで登場するという、念の入れようだ。


初の撮影監督を務めたタランティーノの、とてつもないこだわりが伝わってくる。
冒頭の「おしっこもれそう…」シーンから、
なめ回すような太ももから尻までの映像など、いかにもそちら方面の趣味は全開。
それだけではなく、狂気のスタントマンを演じるカート・ラッセルの、
まさかの「ごめんなさい」シーンに加え、事故場面の衝撃はこれまた圧巻。
キル・ビル」でユマ・サーマンのスタントを務めたゾーイ・ベルの、
圧倒的迫力のスタントも、観ているだけで息を呑むようなすごさなのに、
まさかのラストで客を呆気にさせるあたりまで、まさしく完璧の域といっていい。


そんな、まさしくテレビ東京で昼間やってたような映画の雰囲気を補完する、
さまざまな仕掛けも、このUSAバージョンではふんだんに盛り込まれている。
ロドリゲス「マチェーテ」にロブ・ゾンビ「ナチ親衛隊の狼女」
エドガー・ライト「Don’t」にイーライ・ロスサンクスギビング・デイ感謝祭」といった、
フェイク予告編は、いい感じの嘘くささと安っぽさにまみれているし、
わざわざ70年代風に製作したレーティング表示や、
粒子の粗い映像にフィルムキズなんて、細かい技まで効かせている。
1本ずつとなる日本公開版ではきっちり上映するとのことだが、
こちらのUSA版は、当時の「グラインドハウス」そのままに、
リール紛失という〝おまけ〟の事件まできっちり仕掛けられている。
両作品での登場人物のリンクなんていう悪戯もあって、見どころは満載。


ましてや、映画オタク中のオタク、というか生粋の映画バカである、
タランティーノが詰め込んだ映画へのオマージュは、
おそらく数え上げることが不可能なくらい、膨大である。
タランティーノと同じような少年時代を米国で過ごした映画ライター、
町山智浩が、パンフレットの解説に書いている通り、
この映画の元ネタがすべて理解できる人間は世界でもそうはいないはずだ。


とはいえ、わからなくてもその雰囲気は十分味わえる快作。
取り澄ました映画には決してない、ジャンクな興奮と胡散臭さにシビれる。
失われたリール分を観るために、思わず日本公開版も観てしまいそうな、
ことし最高の映画の興奮を味わえる、そんな企画ものでもあった。