梅田OS名画座で「リトル・チルドレン」

mike-cat2007-08-22



〝心の中で、大人と子供が揺れている。幸せ探しの物語。〟
ことしのアカデミー賞ケイト・ウィンスレットの主演女優賞や、
脚色賞など3部門でノミネートを受けた、悲喜劇のドラマ。
監督は「イン・ザ・ベッドルーム」のトッド・フィールズ。
フィールズは原作のトム・ペロッタとともに、脚色も担当した。
撮影も「イン・ザ・ベッドルーム」のアントニオ・カルヴァッシュ。


主演は「タイタニック」
「アイリス」「エターナル・サンシャイン」ケイト・ウィンスレットに、
「ビューティフル・マインド」「レクイエム・フォー・ドリーム」ジェニファー・コネリー
「ハード・キャンディ」「オペラ座の怪人」パトリック・ウィルソン
幼児性愛者の前科者を痛々しいまでにリアルに演じ、
オスカーでのノミネートだけでなく、NY批評家協会賞では助演男優賞を受賞したのは、
「がんばれ!ベアーズ」(1976)「オール・ザ・キングスメン」ジャッキー・アール・ヘイリー
「トゥルーマン・ショー」「オーロラの彼方へ」ノア・エメリッヒも出演している。


 舞台はボストン郊外の閑静な住宅街。
裕福な夫のリチャード、3歳になる娘のルーシーとともに越してきたサラは、
公園デビューで出会った主婦たちに嫌悪感を覚えつつ、無為な毎日を送っていた。
彼女らが「プロム・キング」と呼ぶハンサムな主夫ブラッドと、
ほんの悪戯のつもりでキスをして見せたサラだが、それを契機に気持ちが揺れ動いていく。
TVプロデューサーとして多忙な妻の尻に敷かれるブラッドも、
サラに抱くときめきと、久しぶりに始めたフットボールの楽しさで、
肝腎の司法試験を前に、まったく身の入らない日々を過ごすことになる。
一方、街には大きな事件が起ころうとしていた。
幼い子どもに対する性犯罪で、服役していたロニーが出所、
地域の子どもたちに、大きなる危機が叫ばれようとしていた。


監督やスタッフ、俳優陣を見回せば、もう一目瞭然のことだが、
非常にウェルメイドなメロドラマに仕上がっている。
「ボヴァリー夫人」をモチーフに、
満たされない気持ちを抱えるサラを演じるケイト・ウィンスレットは、
崩れかけた体の微妙なセクシーさも含め、見事のひと言に尽きるし、
そのサラが踏み出してはいけない一歩を踏み出すのは、
むしろ必然にすら感じてしまうような、いけない説得力に満ちている。


そのサラと不倫の恋に落ちるブラッドも、
宙ぶらりんな自分を持てあまし、人生を見失いつつある。
美しく、社会的にも成功している妻に、ろくにものもいえない生活。
好みでもないはずのサラの誘いにホイホイと乗り、
しまいにはそれに溺れていく様は、これまた何ともリアルである。


だが、人生の迷子になってしまった「リトル・チルドレン」は2人だけではない。
ブラッドとの関係に悩むキャシーもそうだし、
ある事件が原因で警官の職を辞したラリーも同様。
ある意味では、社会的に認められない性的嗜好を抱えるロニーも、
(ことの善悪は別として)社会での居場所を見つけられない「小さな子ども」なのだ。


そんなストーリーに、ユーモアで微妙な毒を効かせる、
トッド・フィールズの演出は、やはりさすがといっていいだろう。
哀しくて、どこか滑稽な場面の連続に、悲喜劇の醍醐味が詰め込まれている。
もちろん、ところどころの描写には、ハッとさせられるような鋭さや美しさもあって、
イン・ザ・ベッドルーム」同様、気がつけば物語世界にずっぽりとはまってしまうのだ。


性犯罪者のロニーの役柄が、ジャッキー・アール・ヘイリーの熱演の割には、
微妙に物語から浮き上がってしまい、うまく調和が取れていない気もして、
傑作というには、微妙な留保をつけてしまう作品ではあるのだが、
高いレベルの期待に十分応えてくれる、さすがの佳作。
ケイト・ウィンスレットがよほど嫌いでない限りは、満足できる作品だと思う。