梅田OS名画座で「リトル・チルドレン」
〝心の中で、大人と子供が揺れている。幸せ探しの物語。〟
ことしのアカデミー賞でケイト・ウィンスレットの主演女優賞や、
脚色賞など3部門でノミネートを受けた、悲喜劇のドラマ。
監督は「イン・ザ・ベッドルーム」のトッド・フィールズ。
フィールズは原作のトム・ペロッタとともに、脚色も担当した。
撮影も「イン・ザ・ベッドルーム」のアントニオ・カルヴァッシュ。
主演は「タイタニック」
「アイリス」、「エターナル・サンシャイン」のケイト・ウィンスレットに、
「ビューティフル・マインド」、「レクイエム・フォー・ドリーム」のジェニファー・コネリー、
「ハード・キャンディ」、「オペラ座の怪人」のパトリック・ウィルソン。
幼児性愛者の前科者を痛々しいまでにリアルに演じ、
オスカーでのノミネートだけでなく、NY批評家協会賞では助演男優賞を受賞したのは、
「がんばれ!ベアーズ」(1976)、「オール・ザ・キングスメン」のジャッキー・アール・ヘイリー。
「トゥルーマン・ショー」、「オーロラの彼方へ」のノア・エメリッヒも出演している。
舞台はボストン郊外の閑静な住宅街。
裕福な夫のリチャード、3歳になる娘のルーシーとともに越してきたサラは、
公園デビューで出会った主婦たちに嫌悪感を覚えつつ、無為な毎日を送っていた。
彼女らが「プロム・キング」と呼ぶハンサムな主夫ブラッドと、
ほんの悪戯のつもりでキスをして見せたサラだが、それを契機に気持ちが揺れ動いていく。
TVプロデューサーとして多忙な妻の尻に敷かれるブラッドも、
サラに抱くときめきと、久しぶりに始めたフットボールの楽しさで、
肝腎の司法試験を前に、まったく身の入らない日々を過ごすことになる。
一方、街には大きな事件が起ころうとしていた。
幼い子どもに対する性犯罪で、服役していたロニーが出所、
地域の子どもたちに、大きなる危機が叫ばれようとしていた。
監督やスタッフ、俳優陣を見回せば、もう一目瞭然のことだが、
非常にウェルメイドなメロドラマに仕上がっている。
「ボヴァリー夫人」をモチーフに、
満たされない気持ちを抱えるサラを演じるケイト・ウィンスレットは、
崩れかけた体の微妙なセクシーさも含め、見事のひと言に尽きるし、
そのサラが踏み出してはいけない一歩を踏み出すのは、
むしろ必然にすら感じてしまうような、いけない説得力に満ちている。
そのサラと不倫の恋に落ちるブラッドも、
宙ぶらりんな自分を持てあまし、人生を見失いつつある。
美しく、社会的にも成功している妻に、ろくにものもいえない生活。
好みでもないはずのサラの誘いにホイホイと乗り、
しまいにはそれに溺れていく様は、これまた何ともリアルである。
だが、人生の迷子になってしまった「リトル・チルドレン」は2人だけではない。
ブラッドとの関係に悩むキャシーもそうだし、
ある事件が原因で警官の職を辞したラリーも同様。
ある意味では、社会的に認められない性的嗜好を抱えるロニーも、
(ことの善悪は別として)社会での居場所を見つけられない「小さな子ども」なのだ。
そんなストーリーに、ユーモアで微妙な毒を効かせる、
トッド・フィールズの演出は、やはりさすがといっていいだろう。
哀しくて、どこか滑稽な場面の連続に、悲喜劇の醍醐味が詰め込まれている。
もちろん、ところどころの描写には、ハッとさせられるような鋭さや美しさもあって、
「イン・ザ・ベッドルーム」同様、気がつけば物語世界にずっぽりとはまってしまうのだ。
性犯罪者のロニーの役柄が、ジャッキー・アール・ヘイリーの熱演の割には、
微妙に物語から浮き上がってしまい、うまく調和が取れていない気もして、
傑作というには、微妙な留保をつけてしまう作品ではあるのだが、
高いレベルの期待に十分応えてくれる、さすがの佳作。
ケイト・ウィンスレットがよほど嫌いでない限りは、満足できる作品だと思う。