TOHOシネマズなんばで「レミーのおいしいレストラン」

mike-cat2007-07-25



〝料理が苦手な見習いシェフ リングイニと、
 パリ一番のシェフになりたいネズミのレミー──

 その出会いは“おいしい”奇跡の始まり…。〟
「モンスターズ・インク」「カーズ」ピクサー最新作。
原題は〝RATATOUILLE〟(ラタトゥイユ)。
ネズミの〝RAT〟が引っかけてある、という趣向である。


抜群の鼻と舌を持つネズミのレミーは、仲間たちの毒味係。
パリで5つ星レストランを経営していた伝説の名シェフグストーに憧れ、
いつの日かシェフになることを夢見るレミーだったが、
ある日忍び込んだ人間の家でドジをやらかし、仲間とはぐれてしまう。
下水溝に逃げ込んだレミーがたどりついたのは、パリ郊外。
いまは亡きグストーの幽霊に導かれ、
彼の店「グストーズ」に足を踏み入れたレミーが出会ったのは、
料理が苦手な、レストランの雑用係リングイニだった―


ピクサーが、なかなか挑戦的な作品を世に送り出してきた。
何せ、シェフを夢見るネズミ、である。
それも、主役のレミーを始めとするネズミたちは、なかなかリアルな質感。
ミッキー・マウスみたいなネズミであることを忘れたネズミではなく、
いわゆるドブネズミらしい、ドブネズミである。
それが、何と厨房で料理をしてしまう。
衛生的な観念からいっても、かなり危険な賭けといっていいだろう。


しかし、伝説の名シェフ、グストーの言葉は「誰もが名シェフになれる」、
そして、「偉大な料理は、勇気から生まれる」である。
先入観や因習にとらわれるのではなく、勇気を持ってことに臨むこと。
そんなメッセージを体現するのは、
やはりいかにもネズミらしいネズミ、レミーでしかできないのだ。
そう考えると、非常にスジの通った設定と描写といってもいいだろう。


とはいえ、世のネズミ嫌いにとっては、生理的に受け付けない面もあるだろう。
このキャラクター自体はけっこうかわいいし、リアルな毛の感じも悪くない。
それでも、ネズミがウジャウジャと××を駆け回るシーンは、正直ちょっと引いた。
レミーを応援したい気持ちや、作品のメッセージには共鳴しつつも、
感覚的な部分で、どうしても微妙な感覚が残ってしまうのが、なかなか辛い。


ただ、そんな微妙さをのぞけば、この作品はなかなか悪くない。
夢に向かってひた走るレミーの物語だけでなく、
失意のままこの世を去った名シェフと、遺されたレストランの盛衰に、
金儲けばかりに血眼になる、2代目のオーナー・シェフとの対立、
男社会で奮闘する女性コックのコレットと、リングイニのロマンスなど、
いつくかのエピソードをうまく絡め合わせつつ、感動のマリアージュを創り出す。


監督は「アイアン・ジャイアント」「Mr.インクレディブル」ブラッド・バード
どちらの作品も、とかく単純になりがちなアニメの感情描写を、
機微を交えて、大人にも耐えうるだけのドラマに仕立て上げた。
この作品でも、単なるサクセス・ストーリーに終わらせず、
さまざまな価値観とのバランスを保ちつつも、感動の物語を作りあげた。
やや物語を広げすぎたせいか、終盤がややばたつくが、
それも全体的な作品の出来からすれば、ほんの小さな瑕疵に過ぎない。


レミーの手による料理や、厨房やパリの街角など、
ひとつひとつの場面への愛情もひしひしと感じられる。
クラシカルなアニメが泣かせるエンドクレジットまで、手抜きは一切なし。
〝No Motion Capture〟を謳い、CGとはいえ、
アニメーターの心意気を感じさせるような手作り感は見事に尽きる。


前述の生理的嫌悪感の部分で、評価はわかれる作品ともなりそうだし、
興行収入的には、出だしでやや勢いが足りなかったとも聞く。
ピクサーの作品群の中でもやや微妙なスタンスの作品とはなりそうだ。
しかし、個人的にはこの、ちょっと微妙なノリが憎めない佳作かもしれない。


余談だが、「クイーン・アリス」の石鍋シェフが翻訳監修のほか、
日本語吹き替え版では声優にも挑戦しているらしい。
冷凍食品の展開など、金儲けシェフへの批判を描いた作品に、
このヒトが平気な顔して関われるその神経、なかなか図太い。
呆れるを通り越して、思わず感心してしまう、というのが正直なところだ。
いや、あくまで個人的な感想ではあるのだが…