梅田ガーデンシネマで「インランド・エンパイア」

mike-cat2007-07-21



デイヴィッド・リンチ、最新作にして集大成!〟
あの「マルホランド・ドライブ」以来5年ぶりに、
奇才(異才? 天才?)がその沈黙を破る。
〝初長編監督作品「イレイザーヘッド」から30年。
 2007年は世界的なリンチ・イヤー。
 デイヴィッド・リンチ旋風が吹き荒れる〟
早くもカルト的傑作として評判の、リンチ・ワールドが展開する。
主演は「ワイルド・アット・ハート「ランブリング・ローズ」ローラ・ダーン
共演に「マルホランド・ドライブ」ジャスティン・セロー
「運命の逆転」「ロリータ」ジェレミー・アイアンズ
「パリ・テキサス」「ツイン・ピークス」シリーズのハリー・ディーン・スタントンら。


ハリウッド女優のニッキー・グレースの新作は「暗い明日の空の上で」。
ジプシーの民話をもとにしたポーランド映画「47」のリメイクだが、
主演の2人が殺されたため、未完に終わったという、いわくつきの作品だった。
不倫を描いた作品をそのままなぞるように
共演のデヴォン・バークと関係を持ったニッキーは、
次第に現実と映画の区別を見失っていく。
謎のうさぎ、TVに涙する女、そして2つの劇中劇…
いくつもの世界を行き来しながら送る、摩訶不思議な物語―


ハリウッドを舞台に、現実と虚構が入り交じるドラマ、というと、
前作「マルホランド・ドライブ」を思い浮かぶが、この最新作、そのまんま「マルホランド〜」に相通じる作品である。
前作では青く輝く箱を分岐点に、2つの世界が交錯したが、
今回の作品はそれを遙かに凌駕する、5つの世界が展開する。
トップスターへの返り咲きを狙う女優、ニッキー・グレースに、
映画「暗い明日の空の上で」の中で、不倫に走るスーザン、
未完に終わったポーランド映画「47」の中で、夫の暴力に悩む女、
砂の嵐が吹き荒れるTV画面を見ながら、暗い部屋で1人なく女、
テレビの公開録画を思わせるセットで、謎めいた会話を交わすウサギ。
現実と悪夢、妄想と幻覚、過去と未来、不安と恐怖が、
あっちこっちで重なり合い、混ざり合い、融け合っていく。


最高傑作の誉れ高い「ロスト・ハイウェイ」や話題作「ツイン・ピークス」
デビュー作「イレイザーヘッド」「ブルーベルベット」などでも目にした、リンチ独特のビジョンを交えつつ、
複雑怪奇なモザイク模様に彩られたその映像世界は、まさしくバッドトリップ。
加えて何と3時間の長尺とあって、試写室では評論家の寝息が響いたとの噂だが、
少しぐらい寝たって、たいして影響がないであろうことも、この映画の特長。


何しろ、必死で理解しようとしたって、理解できるものではないのだ。
リンチ作品といえば、これまでも観終わって思わず苦笑の作品は少なくないが、
この作品の難解度、というか、わけわかんなさは、もうステージが違う感じだ。
謎のウサギは正直、「ツイン・ピークス」の小男よりも不可思議だし、
次々と映し出される場面場面のつながりなんて、不条理そのもの。
おまけにローラ・ダーンが異常に怖い、ときたら、もう人知を越えている。
いわば変人デヴィッド・リンチの頭の中を、
そのまんまのぞかせてもらったような映画といってもいいのだろう。


しかし、それが何とも面白いのだから、やはりリンチはタチが悪い。
確かにウトウトきそうな場面があることも否定しないが、
目の前に繰り広げられる、不条理なドラマに引き込まれるもよし、
まるでドラッグのような、変幻自在の映像に酔うもよし、
何がどうなって、どの世界がどうつながるのか、推理を働かせるもよし…
ワケわかんないなりに、楽しみ方は幾通りもあったりするのだ。


このところリンチ作品の常連だった、アンジェロ・バダラメンディに代わり、
リンチ自らが手がけたという音楽も、これまた見どころ(聴きどころ)だ。
リトル・エヴァ「ロコモーション」を始めとする、意外すぎる選曲に、
ノイズを多用した、効果音の数々が、ドラマの効果をグッと高める。
何だかうまく誤魔化されたかのようで、思わず笑ってしまう、
エンドクレジットのニーナ・シモン「シナー・マン」もすごい。


ほかにも、「ツイン・ピークス」のローラの母親役、グレイス・ザブリスキーに、
マルホランド・ドライブ」のローラ・ハリングナオミ・ワッツ(声のみ)、
ジュリア・オーモンドダイアン・ラッドナスターシャ・キンスキーに、
ウィリアム・H・メイシー、裕木奈江なんかも登場し、不思議な豪華さにあふれた作品。
その表現があまりに、リンチ的すぎて、
過去の名作なんかと比べると、評価は難しいが、
やはりリンチ・ファンなら見逃せない、問題作であるのは間違いない。