梅田OS名画座で「あるスキャンダルの覚え書き」

mike-cat2007-06-11



〝彼女の恋の相手は15歳だった〟
アカデミー賞4部門ノミネートの話題作。
あるスキャンダルをめぐる、2人の女性の愛憎劇を、
「恋に落ちたシェイクスピア」ジュディ・デンチ
「アビエイター」ケイト・ブランシェットによる、
豪華な共演で描く、迫真のサスペンスだ。
ゾーイ・ヘラーによる同名原作「あるスキャンダルの覚え書き (ランダムハウス講談社文庫)」を、
「アイリス」で映画に進出した演劇界の巨匠リチャード・エアが映像化。
オスカー・ノミネートの脚色は「クローサー」のパトリック・マーバー。


労働階級の子どもたちが通う、ロンドン郊外の総合中等学校。
そこで歴史教師を務めるバーバラは、厳格にして毒舌な老齢の独身女性。
その孤独を、日々綴る日記にぶつける毎日を送っていた。
ある日、空気の澱んだ学校に、さわやかな波紋が巻き起こる。
若く、美しく、そして奔放な新任の美術教師、シーバの着任だった。
シーバに魅せられ、惹かれるバーバラは、
シーバと親しくする同僚にやっかみの目を向けつつ、接近の機会を探る。
あるきっかけからシーバと交遊を始めたバーバラだが、
シーバが生徒の少年と情事に耽る場面を目撃してしまう。
その時、2人の関係に、大きな変化が起こり始めた―


オスカー女優、の肩書すら、逆にかすんでしまうほどの名女優の対決である。
(いや、実はホントに取っ組み合いまでしてしまう(!)のだが…)
といっても、サリー・フィールドあたりがやらかすような、
「わたしの演技見て!」の自己顕示欲丸出しで、
相手を打ち消し合う、えせ名演合戦とはだいぶ趣を異にしている。
奔放だが、自己評価の低いシーバと、
それに惹かれる、ストーカーまがいのバーバラ…
2つの孤独な魂の愛憎劇を通じて、
2人の女優の魅力が輝き合う、本当の演技合戦である。


腹黒く、嫉妬深く、そして陰険なバーバラを喜々として演じるデンチ、
付け入られながらも、優柔不断に流されていくシーバを繊細に演じるブランシェット。
看板女優2人の熱のこもった演技は、サスペンスフルな展開や、
エアによる効果的な演出と相まって、とてつもない緊迫感を帯びていく。


そして、何といっても恐ろしいのは、デンチが浮かべる悪魔の笑み。
バーバラの行動の数々は、ある意味イタすぎて、
胸が詰まる部分もあるが、やはり冷静に考えると怖い、怖すぎる。
怪物の姿こそ見せてはいないし、洗練のベールに包まれてはいるが、
この作品、まぎれもない特級品のホラーであるといえるだろう。
ホラーっぽい文脈を駆使したある場面など、思わずニヤリとしてしまう。


「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」や、「堕天使のパスポート」など、
数々の印象的な作品を手がけた撮影監督、クリス・メンゲスによる映像も、
どこかくすんだようなロンドン郊外の光景を、効果的に映し出す。
バーバラとシーバの抱える孤独、そして苦悩が、場面の端々からも伝わってくるのだ。


エンドクレジットが終わると、原作の方もやたら気になり出す。
いわゆる〝信用できない語り手〟であるバーバラの綴った日記には、
憎しみと嫉妬、そして悲しみ、孤独が、虚飾たっぷりに描かれているのだろう。
読んだ上でもう1回観てもいい、観たくなる、そんな作品でもあるのだ。