シネマート心斎橋で「BRICK ブリック」

mike-cat2007-05-29



〝謎。〟
サンダンス映画祭で話題を呼んだ異色の青春ノワール
米西海岸サンクレメンテの高校を舞台に、
死んだ元恋人の残した言葉の謎を追う少年を描く。
監督・脚本は、新鋭ライアン・ジョンソン
この作品が評価され、次作〝The Brothers Bloom〟には、
レイチェル・ワイズエイドリアン・ブロディのオスカー・ペアが主演。
(「バベル」の菊地凛子も出演する)
ちなみに〝brick〟とは、
「レンガ、もしくはレンガ一個の長さ;1kgのコカイン;いいヤツ;くたばれ!」


西海岸サンクレメンテの高校に通うブレンダンは、クラスの外れ者。
ある日、2カ月前に別れた恋人エミリーから、電話がかかってきた。
「ヘマをした」「ブリックが…」「ピンが…」
謎めいた言葉を説明することもないまま、電話は切れた。
いったい、エミリーは何に巻き込まれたのか。
危機を感じたブレンダンは、その行方を追いかけるが、
ようやく探し出したエミリーは、川岸に横たわる亡骸となっていた―


学園ハードボイルド、なのである。
ダシール・ハメットレイモンド・チャンドラーにオマージュを捧げた、という、
ライアン・ジョンソンの脚本・演出は、現代風のスラングにまみれたセリフ回しにも関わらず、
きっちりとハードボイルドの系譜に連なる物語となっている。
馴れ合いを好まないブレンダンは、唯一の親友ブレインの助けを借りつつ、
さまざまな危険へ次々と飛び込み、エミリー失踪の謎に迫っていく。
ボコボコにされても、フラフラになっても、その美学を貫くように、前へと進む。


学園ものとあって、かなり設定に無理な面はある。
文字通り、ヤバい取引などが絡むストーリーとはなるのだが、
そこに出てくるキャラクターは、まるで昔の学園マンガを思わせる、ムチャな連中ばかり。
大木こだまなら間違いなく「そんなヤツおらんやろ〜」と、なるだろう。
ただ、それを逆手にとって、笑えるシャレもかましているから、
確信犯ではあるはずで、ムチャな設定は承知の上で観るのが、作品を楽しむ秘訣だ。


そうしたムリな設定に目をつぶると、この映画のスタイルが際立ってくる。
前述した通りの、ハードボイルドな雰囲気やセリフ回しだけでなく、
「アンノウン」「カンバセーションズ」のスティーヴ・イェドリンによる、
凝ったアングルと、印象的な光と陰の使い方で低予算をカバーする映像センスは、
それだけでも観る価値あり、としたくなるような、魅力にあふれている。
凡庸な表現だが、まさしくスタイリッシュ、といってもいいだろう。


主演のジョセフ・ゴードン=レヴィット「トレジャー・プラネット」「陪審員」 )を始めとした、
若手俳優陣の健闘もなかなか目立っている。
謎の少女ローラを演じる、「カンバセーションズ」のノラ・ゼヘットナーや、
謎の〝ボス〟として異彩を放つ、「刑事ジョン・ブック/目撃者」「ランブリング・ローズ」ルーカス・ハース
オタク系の〝ワトスン君〟を演じるのは、
「フレイルティー/妄執」「ドメスティック・フィアー」のマット・オリアリー。
そして、TVシリーズの「LOST」「ロズウェル/星の恋人たち」のエミリー・デ・レイヴィンが、
ツイン・ピークス」よろしく、美しい死体、として川岸に横たわる。


惜しむらくは、ミステリーそのものの弱さだろうか。
テンポのよさと雰囲気に乗せられ、退屈さは感じないが、
キャッチフレーズの「謎。」そのものは、序盤から?見えて?しまう。
謎解きそのものの過程は楽しめても、
実際タネを明かされた後も、衝撃の結末、とはならないのが残念だ。
全体的な評価としては、傑作とは言い難いが、
次回作以降をにらみ、見逃せない作品、といったとろこだろうか。