なんばパークスシネマで「ラブソングができるまで」

mike-cat2007-04-21



〝彼は、忘れ去られた80年代のポップスターだった
 彼のメロディに彼女の詩(ことば)が出会うまでは──〟
「トゥー・ウィークス・ノーティス」「フォー・ウェディング」
「ブリジット・ジョーンズの日記」「ノッティングヒルの恋人」の、
ブリティッシュ優男、ヒュー・グラントと、
「ウェディング・シンガー」「25年目のキス」
「2番目のキス」ドリュー・バリモア
ロマンティック・コメディとくれば、という2人の共演で送る逸品。
〝あの〟80年代から甦った元スターと、傷を抱えた女性の恋は、
まさしくロマンティック・コメディの王道を行く、甘さと笑いに満ちている。



監督はヒューとサンドラ・ブロックが共演した、「トゥー・ウィークス・ノーティス」のマーク・ローレンス。
同じくサンドラ主演の「デンジャラス・ビューティー」では脚本を務めた、このジャンルの精鋭である。
この作品を最後に、このジャンルからの撤退を宣言しているというドリュー、
音楽にろくに興味もないが、歌にダンスにピアノの猛特訓をしたというヒュー。
そんな話題だけでももう見逃せない、この春の本命作品のひとつだ。


MTV全盛の80年代、一世を風靡した〝PoP〟のツインボーカルの片割れアレックス=グラント。
ソロとして大成功を収めたもう一人のボーカル、コリンに対し、ドラッグと酒で持ち崩したアレックスは、
ソロでも失敗、声がかかるのは〝あの人はいま〟番組での色物対決という有り様。
だが、ドサ回り興行でかつての栄光の余韻を楽しむアレックスに、まさかのチャンスが訪れる。
オリエンタルなムードと、セクシーなダンスで大人気の歌姫コーラからの、作曲の依頼だった。
とはいえ、作詞が苦手なアレックスは、気の合わない作詞家とノラない曲作りで大苦戦。
そんな折、アレックスの前に、思いがけない助っ人ソフィー=バリモアが現れた―


冒頭、タイトル・クレジットに合わせ、
PoPのヒット曲〝POP GOES MY HEART〟のミュージック・クリップが流れる。
もうこの時点で、気分は80年代。
デュラン・デュランがモデルという〝PoP〟のクリップは、
まさにあの頃を凝縮したような、気恥ずかしさと輝きに満ちている。
スマイルを振りまき、腰をフリフリ踊るヒューの姿を拝むだけでも、もう爆笑の嵐だ。
あの王子様ヒューもつくづく歳を取ったと思う場面もあるのだが、
そのショボいへナチョこっぽさも、今回はうまく生かしているのがキモである。
「ブリジット・ジョーンズ〜」での悪いオトコぶりなど、
うまく肩の力が抜け、ヒュー・グラントの輝きは50を前に、ますます増しているようにも思える。


ちなみにヒューが演じるアレックス、あの、ワムのアンドリューを思わせる雰囲気も。
ジョージ・マイケルがソロで大成功を収める影で、あっさりと消えてしまった、あの人である。
アレックスが遊園地の営業で歌うバラード、
〝DANCE WITH ME TONIGHT〟なんて、そのまんまワムと同じメロディーラインである。


80年代らしさ、を思い出させるのは、それだけではない。
さりげなくリマールがかかっていたかと思えば、
デビー・ギブソンティファニーフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドビリー・アイドル
懐かしの名前が次々と登場し、あの時代にセイシュンを過ごした人間としては、
まともに懐かしさと笑いのツボに直撃してしまうのだ。
80年代のスターがボクシングで対決し、勝てば持ち歌を歌えるという〝あの人はいま、対抗バトル〟。
アレックス自身は出演を断るのだが、その後こんなセリフも飛び出す。
「誰か、〝80年代バトル〟見た? デビー・ギブソンがパンチくらわしてたよ!」
〝Anybody see 'Battle of the 80's has-beens' last night? That Debbie Gibson can take a punch. 〟
かなり度を過ぎた悪ふざけなのだが、まあそれもそれで、何となく許されるのが80年代のノリである。


80年代といえば、この人のドリューだが、今回製作にはタッチしなかったようだ。
したがって、〝ドリューのテーマ〟ことスパンダー・バレエの〝トゥルー〟はかからない。
とはいえ、80年代をこよなく愛するドリューだけに、この映画の雰囲気をうまく伝えてくれている。
気恥ずかしくって笑ってしまうけど、あの時代を決して嘲りの対象にはしない。
このスタンスの絶妙さが、やはり〝女王〟ドリュー・バリモアたる由縁でもあるのだろう。
ラブ・コメ撤退を宣言しているとの話は残念ではあるが、
ラブ・コメにいつまでもしがみついたメグ・ライアンの凋落ぶりを考えると、
さすがの目利きぶり(オトコを見る目は全然だが…)だな、と感心するばかりである。


そんなふたりの会話で忘れられないのが、ピチピチパンツをめぐる場面である。
アレックスがソフィーに、甘く語りかける。
「君と一緒にピアノに向かっていた時間が、この15年間で最高のときだった」
〝 The best time I've had in the last fifteen years was sitting at that piano with you.〟
照れくさそうにソフィーが応える。
「とっても素敵な言葉… それもそんなピチピチパンツを履いた人からもらえるなんて格別だわ」
〝 That's wonderfully sensitive... especially from a man who wears such tight pants. 〟
そして、アレックスのキメのひと言。
「ピチピチパンツの締め付けが、僕のハートに血をたぎらせるのさ」
〝 It forces all the blood to my heart. 〟
もう笑ってしまうやら、気恥ずかしいやら… まさにラブ・コメそのまんまである。


ふたりのキューピッドともなる、デーヴァ役のコーラ・コーマンも印象的だ。
セクシー・ダンスはそのまんま、ブリットニー・スピアーズがモデルのようだ。

オリエンタルな衣装(もちろん極小)に身を包み、仏陀に「悦びを! カルマを!」と求める、
スーパー勘違いソング〝BUDDHA'S DELIGHT〟で登場する彼女だが、どこか憎めない。
日本だと倖田來未に当たるような、最近のエロ一直線のアーティストを好演している。
ちなみに次回作は、ドレイク・ベル主演の学園コメディ〝College〟
大ブレイクは難しそうだが、ちょっと気になる女優ではある。
あとは「シングルス」キャンベル・スコットが、
嫌味な作家先生役で登場しているのは、ちょっとショックだったが、まあ大勢に影響はない。
ほかの脇役陣も、いい感じの配役でまとめており、好感度はかなり高い。


特別斬新な内容、ということもないし、
ストーリーのそこかしこは何かの映画で見たことのあるパターンを踏襲している。
(もちろん、そんな斬新な映画は、年に数本もないが…)
だが、ロマンティック・コメディが好きな人に楽しんで欲しい、と
本気で真剣に、そしてていねいに作った作品であることは間違いない。
非常にウェルメイドなロマンティック・コメディといっていいだろう。
甘いムードに洒落た会話、時にベタなドタバタも織り込み、
笑えて、キュンときて、ハッピーになれる、という王道の楽しみを提供してくれる。
このジャンルが嫌い、という人でない限り、強くお勧めしたい1本なのである。