シネマート心斎橋で「情痴 アバンチュール」

mike-cat2007-04-11



〝私が私でなくなる夜〟
夜ごと街を徘徊する夢遊病の美女と、
彼女に惹かれた男の背徳のロマンス。
主演はフランソワ・オゾンの〝ミューズ〟
リュディヴィーヌ・サニエと、ニコラ・デュヴォシェル、
共演にブリュノ・トデスキーニら。


監督・脚本は、長編第2作のグザヴィエ・ジャノリ。
98年の〝Interview, L'〟では、カンヌ映画祭の短編部門パルム・ドールを獲得した注目株だ。


ジュリアン=デュヴォシェルは、恋人セシルとともに、パリでの生活を始めたばかり。
ビデオテーク(映像ライブラリー)で深夜働くジュリアンはある日、
自宅アパートの玄関でガラス越しに自分を見つめる美女ガブリエルと遭遇する。
雨に濡れそぼり、裸足で街を歩く彼女に惹かれ、追いかけるジュリアンだったが―


タイトルが「情痴」である。
あらためて辞書で調べると〝色情に溺れて理性を失うこと〟(おお!)
おまけに〝アバンチュール(冒険)〟がつく。(原題も〝Une aventure 〟)
で、主演が「焼け石に水」リュディヴィーヌ・サニエ
さらに日本版のポスターを見てしまったら↓

もう誰だって官能サスペンスと信じて疑わない。
さぞかし、あんなことや、こんなこと…
と妄想を膨らませていくと、その期待はきっちりと裏切られてしまう。
確かに濡れ場もあるし、サニエのヌードも拝める。
しかし、あまり色っぽくもなく、艶っぽくもない、ゲージュツっぽさが前面に押し出されている。
それでいて、ラストでは突然ミステリーぶってみたり…
ジャンル的な立ち位置に、だいぶ問題があるのだ。


監督がこだわりを持って、場面場面の間に挿入しているのは、
ビデオテークで働くジュリアンが次々と映し出す映画や映像の数々。
ノスフェラトゥ」であったり、ガブリエルの家から持ち出したホームビデオであったり…
夢遊病という使い古された設定に、映像を被せることで、
いろいろと示唆しているのは、まあきっちりと伝わってくる。
しかし、どこか独り善がりな感は否めない。
かなり退屈に感じる時間も、はっきりいって何度かある。
たまに登場するサニエのヌードで目が覚める、といったら言い過ぎか。


そのサニエにしても、数々のフランソワ・オゾン作品での彼女と比べると、格段に落ちる。
あっけらかんとした裸が逆に淫靡だった「焼け石に水」しかり、
鮮やかなビキニ姿に目を奪われっぱなし立った「スイミング・プール」しかり…
オゾン作品の彼女には間違いなく、特別な何かがあった。
しかし、この作品で映し出される彼女には、
ファム・ファタールとしての輝き、そして引力もどこか不足しているように思える。


雰囲気そのものは悪くないし、部分部分ではグッと引き込まれる何かはあるから、
決して、魅力に欠けた作品というわけではない。だけど、何かが物足りない。
悪い意味で〝典型的なフランス映画〟といったら、いいのだろうか。
いっそ、期待通りにベタな官能サスペンスで撮ってくれたら、とつくづく思う。


グザヴィエ・ジャノリの次回作は昨年のカンヌ映画祭出品作の〝Quand j'étais chanteur〟
ジェラール・ドパルデューセシル・ドゥ・フランス主演のロマンスだという。
この監督に対する評価は、その次回作を観てから決めようとは思うが、
何ともこう、微妙なフラストレーションの残る、微妙な作品ではあった。