TOHOシネマズなんばで「ブラッド・ダイヤモンド」

mike-cat2007-04-10



〝ダイヤの価値を決める“4つのC”──
 color(色) cut(カット) clarity(透明度) carat(カラット)
 しかし、実は5つめのC<conflict>が存在することを、あなたは知る──

 [自由][家族][真実]──彼らはダイヤにそれぞれ違う輝きを見た。〟
「血の大地」アフリカの紛争地域で産出されるダイヤモンドをめぐる、
レオナルド・ディカプリオ主演の社会派エンタテインメント。
監督は「ラスト・サムライ」エドワード・ズウィック
アカデミー賞では、ディカプリオが主演男優賞に自身3度目のノミネート、
ジャイモン・フンスー「イン・アメリカ」「アミスタッド」)も助演でノミネートを受けた。


1999年、内戦下の西アフリカ、シエラレオネ
革命統一戦線(RUF)の襲撃で家族と引き離されたソロモン=フンスーは、
囚われた先でのダイヤモンド採掘作業で、巨大なピンク・ダイヤモンドを発見する。
政府軍との戦闘のさなか、そのダイヤを地中に隠したソロモンだが、
こんどは政府軍によって、投獄の憂き目を見ることとなった。
その監獄でソロモンに目をつけたのは、旧ローデシア出身の、ダイヤ密輸業者ダニー=ディカプリオ。
RUF支配下の山中に隠されたピンク・ダイヤを追いかけ、
米国人ジャーナリストのマディ=ジェニファー・コネリーを巻き込んでの捜索が始まった―


まるでデ・ビアスを思わせる、ダイヤモンド業者ヴァン・デ・カープが裏で糸を引く、〝紛争ダイヤ〟の密輸。
搾取のわずかな見返りは、反政府軍の武器として、さらにアフリカの民衆を苦しめる。
その舞台は、ほんの数年前まで実際の内戦が繰り広げられていたシエラレオネ
かつてヨーロッパがもたらした厄災が、アフリカの大地には、いまもくすぶり続ける。
目を見張るような美しき光景と、哀しいコントラストをなす、血みどろの惨劇…
玩具で遊ぶように、銃を振り回し、虐殺と略奪の限りを尽くす少年兵の姿は、
苦しむアフリカのひとつの象徴的なものとして、とても痛々しく描かれる。


話題を呼んだ「ホテル・ルワンダ」「ナイロビの蜂」など、
近年紹介されることが多くなった、アフリカを舞台にした映画。
血にまみれたダイヤモンドを描くこの作品も、
美しいアフリカの大地+哀しい現実、の流れを汲むものとしては、正統派の作品だ。
社会派映画としての視点は、先に挙げた2作品にも匹敵する、重い衝撃をもたらす。


序盤で反政府ゲリラが、とらえた虜囚の腕を切り落とす場面がある。
一瞬、〝アフリカの野蛮人〟的な印象を受けさせられるが、これがミソだ。
この腕を切り落とすという行為を持ち込んだのは、かつてこの地を支配したベルギー人。
アフリカの厄災のほとんどが、ヨーロッパ人によって持ち込まれたことを、
あらためて思い起こさせられる、強烈なパンチのひとつである。


ジェニファー・コネリー演じるマディら、ジャーナリストの描き方も面白い。
追いかけているのは果たして使命か、それとも刺激なのか。
悲劇を商品に仕立て上げ、世に訴えかけるが、さまざまな葛藤は否定できない。
あまりに巨大な悲劇を目の前に、自らの無力を突きつけられる哀しさは、
観るものにも、何ともいいようのない、虚無感を味わわせる。


とはいえ、〝社会派〟だけが、この作品の味ではない。
実際の犠牲者のことを考えると、多少不謹慎な感は否めないが、
戦場を逃げ惑い、美しいアフリカを駆け巡るアクションシーンのキレはまずまず。
元傭兵、という設定のダニー=ディカプリオの活躍も、スピード感と迫力にあふれている。


やや肥え気味の体で、元傭兵の密輸業者を演じたディカプリオの演技も見ものだ。
哀しい過去を背負い、故郷を追われた〝アフリカの白人〟を、
その実力を存分に発揮し、見事に演じ上げている。
ほかの俳優に適役がいないかどうか、は別として、ディカプリオのことだけで考える限りは、
おそらく、あの代表作「タイタニック」以来のはまり役といっていいだろう。


ディパーテッド」もよかったし、「アビエイター」だってそう悪くはなかったと思う。
ダニエル・デイ=ルイスに完全に喰われた「ギャング・オブ・ニューヨーク」だって否定しない。
だけど、これらの作品には、スター俳優・レオをねじ込んだ、〝無理矢理感〟もあった。
だが、この作品に限っては、レオが輝きつつも、
単なるスター映画には終わらない、きちんとしたマッチ感が味わえるのだ。


ジェニファー・コネリーもいい。すごくいい。たまらない。
個人的にはオスカーを獲った「ビューティフル・マインド」よりも、「レクイエム・フォー・ドリーム」の危険な感じや、
「ハルク」「ダーク・ウォーター」での泣き顔に魅力を感じるのだが、
この映画でも、戦場ジャーナリストとしての強く、凜とした瞳や、現実を目の前にした哀しい表情が素晴らしい。
ことし37歳になる彼女だが、30代ならではの美しさをまとい、さらに輝きを増している。


ただ、この映画にも弱点はある。それは、ラストまでの流れの悪さ。
社会派的な視点を踏まえつつ、ドラマをきっちり描きたい。
すべてをきちんと伝えよう、伝えよう、としてしまったせいだろうか、
結末そのものは悪くないのに、何だか感動が削がれるような印象が強い。
描かれる〝ある別れ〟も説明がくどすぎるせいか、ご都合主義にも見えてくる。
もっと〝見せずに〟描ききる演出はできなかったのか、と思ってしまう。
トムちんの好き放題を許した「ラスト・サムライ」より、
ずっとまともな作品なだけに、もったいないな、という思いは強いのだった。