TOHOシネマズなんばで「ブラックブック」

mike-cat2007-04-07



大傑作「スターシップ・トゥルーパーズ」「ロボコップ」
そしてカルト傑作として近年再評価されている「ショーガール」の、
ポール・ヴァーホーヴェン最新作。
会計屋主導のハリウッドのくびきを逃れ、
故郷オランダで解放された異能の人が、
ナチス占領下のオランダを舞台に描いた、大河サスペンス・スリラーだ。
時代の波に翻弄されながらも、したたかに生き抜いた女の数奇な運命の物語は、
総製作費1700万ユーロ(25億円)というオランダ映画史上かつてない大作。
ヴァーホーヴェン自身の手がけた「SPETTERS/スペッターズ」を抜いて、
オランダ史上最高の興収を記録したという。


脚本は、「4番目の男」などオランダ時代のヴァーホーヴェン作品をいくつか手がけたジェラルド・ソエトマン。
ハリウッド時代は脚本から遠ざけられていたヴァーホーヴェンも、脚本に参加した。
主演は白い肌が印象的なカリス・ファン・ハウテン「ネコのミヌース」)。
共演に「4番目の男」のトム・ホフマン、
「トンネル」「善き人のためのソナタ」セバスチャン・コッホと、
ヨーロッパ系の実力派キャストを揃え、エゲつなく、容赦のないドラマを濃厚に描き出す。


二次大戦末期、ナチス占領下のオランダ。
ドイツの爆撃で隠れ家から焼け出されたユダヤ人のラヘル・シュタイン。
ナチスの襲撃で家族を皆殺しにされ、エリス・デ・フリースとしてレジスタンスに身を投じる。
時代の大きな流れに時に身を委ね、時に抗い、流されていくエリスは、
レジスタンスの医師ハンス、ナチス諜報部の大尉ムンツェらの間を彷徨う。
策謀にまみれ、裏切りにあふれた時代を、ラヘル=エリスはどう生き抜くのか―


題名の「ブラックブック」は、実在を噂される、
レジスタンスの裏切り者とナチス協力者のリストが載せられた、ある弁護士の手帳。
裏切りに次ぐ裏切り、策謀の裏に隠された策謀…
誰ひとり信用できない時代を象徴するような、信じられない事実が隠された文書である。
あの問題作「4番目の男」を思わせる、背徳の空気をまといながら、
ラヘルをめぐる壮大な物語は、序盤から全開モードで突っ走り続ける。
ヨーロッパで解放されたヴァーホーヴェンの爆発力が、ひしひしと感じられるパワフルな作品だ。


いかにもヴァーホーヴェンらしく、ナチスを題材にしながらも、通り一遍の正義は描かない。
ナチスだけが絶対悪、なら誰でも描ける、きれい事でしかない。
ナチスにも人間的な魅力を持った人間を描いてしまうばかりか、
ヴァーホーヴェン印の鉄槌は、占領されたオランダ人の側にも下される。
匿われているユダヤ人に「イエスを信じれば迫害はなかった」と言い放つ男の愚劣さに、
戦後、ナチスの協力者たちを断罪する人たちのえげつない非道ぶり、
善人が一番怖いとはよくいったもので、善人ぶった連中の本性を、
そのエグさとグロさもそのままに、どろどろと描き出していくのだ。


それだけイヤなものを見せられて、娯楽映画として成り立つのか、というと、
成り立ってしまっているのだから、ヴァーホーヴェン映画はやめられない。
ジェットコースター顔負けの二転三転、七転八倒、毀誉褒貶…
盛りだくさんのドラマにくぎづけになりながら、次の展開に胸を躍らす。
これでもかと悲惨な目に合わされるヒロインを見るにつけ、
観ている人間の悪趣味さ、いや、裏に隠されている非道な部分をえぐり出されるようで、
微妙に居心地の悪さも感じてはしまうのだが、それはそれでちょっと快感でもあったりする。


二次大戦の戦渦を乗り越え、ようやく迎えたハッピーエンドと思いきや、
目の前に差し出されるのはイスラエルを舞台にした新たな戦渦…
この徹底的な悪趣味リアリズム、さすがヴァーホーヴェンと唸らされるしかない結末だ。
反逆の香り漂うハリウッド時代の作品も好きだが、
この自由奔放なやり放題は、またたまならい味わいを醸し出している。
不滅のイカレ監督ヴァーホーヴェン、次回作も楽しみでしかたない。