TOHOシネマズなんばで「ハッピー フィート」

mike-cat2007-04-01



〝このステップが、ぼくの気持ち。
 超オンチな“マンブル”は、いつもひとりぼっち…。
 彼が踊りはじめたとき、奇跡が起きる!〟
ピクサー製作の「カーズ」を見事に打ち破り、
アカデミー賞長編アニメ賞を獲得した、ミュージカル・ファンタジー
「ベイブ/都会へ行く」「マッドマックス」ジョージ・ミラー監督をはじめ、
「ベイブ」のスタッフが結集、驚異の映像世界を実現した。


南極の厳しい自然を生き抜くコウテイペンギンにとって、
一番大事なのものは、自らの魂を歌い上げる〝心の歌〟。
だが、メンフィスとノーマ・ジーンの息子マンブルは、とんでもない音痴に生まれてしまった。
そんなマンブルにとって、心からわき出てくるのはタップ・ダンス。
だが、そんなマンブルのダンスを周囲は笑い飛ばすばかりか、
エサ不足を招く不吉なものとしてを禁じ、マンブルを仲間外れにするのだった―


この作品で何よりも素晴らしいのは、前述した映像だろう。
CGはここまで進化したのか!! と、ただただ感心するしかない。
「皇帝ペンギン」を思い起こさせる、ブリザードに氷山、
そして極寒の海を支配するシャチやアザラシなど、〝本物以上〟にリアルな描写に圧倒される。
ペンギンの、人間くささと本物らしさの微妙なバランスを狙った表情や、羽毛の質感は見事の一言。
ノーマ・ジーン(マリリン・モンローの本名)の胸元には、ほくろがあったり、と細かいシャレもいい。
ジョン・パウエル「シュレック」)によるスコアや、
数々の名曲との絶妙のマッチングで、ため息すらもれるような体験が、そこには待っている。


自らのアイデンティティの探す、マンブルの成長物語に、
因習にとらわれたペンギンの帝国での、親子関係を含んだ世代間の融和、
ペンギン界のディーヴァでもある幼馴染みのグロリアとのロマンスと、
まだ見ぬ世界に飛び込んだマンブルのアドベンチャー
愉快なアデリー・ペンギンたちとの出会いに、
人間世界をも巻き込んだ、大いなるメッセージ発信と、
予想外に凝っているストーリーも、なかなか盛りだくさんの内容だ。


そのすべてがいい方向で奏功しているとは、言い難い部分もある。
卵の時のアクシデントが原因で、マンブルが音痴になったエピソードや、
最終的な解決にまつわる部分には、微妙な引っかかりは覚えてしまうのも確かだ。
特に、卵のエピソードは、よけいな誤解を招きかねないだけに、まさに蛇足。
メンフィス(エルヴィス・プレスリー)とノーマ・ジーン(マリリン・モンロー)の間に、
音痴な子どもが産まれてしまった、という設定は、それだけで意外性もあるし、
往々にしてありえる、運命の悪戯として、そのまま通用するはずのエピソードだろう。


とはいえ、ロビン・ウィリアムズを始めとする、アニメならではの豪華声優陣は、
そんなマイナス面を吹き飛ばすだけの、お楽しみを提供してくれる。
主演のマンブルにはイライジャ・ウッドを配し、
ヒュー・ジャックマンニコール・キッドマンブリタニー・マーフィーにヒューゴ・ウィービング
普通の作品ではありえないような面子がズラズラと並んでいる。


やはり、目立つのはアデリーペンギンのコメディアン5人組「アミーゴス」のラモーンと、
イワトビペンギンの〝グル〟ラブレイスの、2役を演じたロビン・ウィリアムズだろう。
よくも悪くもこの人の世界になってしまっているので、お嫌いな人には微妙だろうが、
ラテンのノリで歌い上げる「マイ・ウェイ」を始め、圧倒的な芸達者ぶりを見せつける。


もちろん、華麗なミュージカル・シーンを彩る名曲の数々もたまらない。
プリンス〝KISS〟からエルヴィス・プレスリーの〝HEARTBREAK HOTEL〟への流れに
ルーファス&チャカ・カーンの〝TELL ME SOMETHING GOOD〟、
クイーンの〝SOMEBODY TO LOVE〟、ビーチ・ボーイズ〝DO IT AGAIN〟に
ブランニュー・ヘヴィーズ〝JUMP N' MOVE〟まで、グッとくる選曲が光る。
そして、前述のラテン調に歌い上げるフランク・シナトラ〝MY WAY〟や、
マンブル最大の見せ場たる、アース、ウインド&ファイアー〝BOOGIE WONDERLAND〟まで。
もう、勝手に体がリズムを取ってしまうような、ご機嫌なチューンにあふれているのだ。


文句なしの傑作、と言い切るには、微妙な部分もあるが、
108分間の映像体験は、見逃すのは惜しいほどの驚きと喜びに満ちている。
「カーズ」とどっちがいいか、と問われると、個人的には「カーズ」なのだが、
思わずサントラやDVDも欲しくなる、そんな映画であることは間違いない。