DVDで「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」

mike-cat2007-03-31



「ヤグシェマーシュ!」
アカデミー賞の脚色賞ノミネートを始め、ゴールデン・グローブ賞や、
LA批評家協会賞など数々の賞に輝いた、衝撃の問題作。
小規模公開にもかかわらず、全米NO.1ヒットを記録した、悪趣味ムービーだ。
町山智浩氏のブログで知って以来、
観たくて観たくてならなかったが、下品&差別ネタのオンパレードということで、
日本公開のメドが立たないかな、とアメリカ版DVDを購入。
しかし、どうやら5月公開が決まったようで、まずはめでたし♪ めでたし♪


“アリ・G”などでも知られる、英国の人気コメディアン、
サシャ・バロン・コーエンの生み出した、謎のカザフスタン人キャラ、ボラット・サグディエフ
〝未開の国〟カザフスタンでTVレポーターを務める、そのボラットが、
アメリカの文化を学習するために、カザフスタンからやってきたドキュメンタリー、という筋立て。
いわば、カザフスタン人ネタのアホ・コント+ドッキリの、悪趣味ジョーク映画である。
カザフスタンにある、故郷の村Kuzcekで始まるボラットの旅は、
お下劣できわどい、そしてインチキくさいカルチャー・ギャップに満ちている。
NYの空港から地下鉄、そして街中…
カザフスタンの風習(もちろん、インチキ)に従って行動するボラットが巻き起こす珍騒動。
そして、パメラ・アンダーソンとの運命の出会い(TVで「ベイ・ウォッチ」を見ただけだが…)。
パメラに会いに行くため、陸路をLAに向かうボラットの珍道中が始まる―


ロデオ大会でのどぎついスピーチに、ユダヤ系簡易ホテルでの悪趣味な騒ぎ、
(ちなみにサシャ・バロン・コーエンユダヤ系だけに、どぎつい差別ギャグ満載)
男尊女卑を装ったフェミニストとの論争やエチケット講座での蛮行、
ユーモア講座の講師をからかってみたり、ヒッチハイクでボンクラどもと合流したり、
知らないふりをしてゲイパレードに参加してみたかと思えば、素知らぬ顔でTVショーにも出演。
まあ、考え得る限りのお下劣なジョークと、限度を超えた悪ふざけに徹している。


個人的に一番のお気に入りは、ロデオ大会でのスピーチ&国歌斉唱だろうか。
〝テロとの戦争〟を〝テロの戦争〟と言い換え、アメリカの対イラク戦争を巧妙に茶化す場面。
イラクをぶっつぶせ!」に最初は歓声を挙げていたはずの観客が、
「今後1000年トカゲも生きられないようにしてしまえ!」ぐらいで、ざわざわし始める。
そして、アメリカ国家のメロディに乗せたカザフスタン賛歌で、ブーイングは最高潮に。
政治風刺としては、どぎつくもかなりハイブロウな、名場面ではあると思う。


ただ、各シーンを全般的に見回してみて、善意の人々を利用したり、
差別ネタを使ったりという点を考えると、笑っていいのかどうか、正直戸惑う部分もある。
その〝許されざる〟度といえば「ジャッカス」よりも上かも知れない。
本当にカザフスタン人レポーターだと思っていた人から、
訴訟も起こされているという話を何かで読んだが、無理もないとは思う。


また、全部が全部そうとはいわないが、ドッキリのパートには、
いわゆる〝やらせ〟的な演出も介在している気はしなくもない。
カメラマンの存在を考えると、その反応はどうなの? という場面も少なくないのだ。
まあ、そんなやらせっぽい部分も含め、ジョークととればいいとは思うし、
実際にコケにされたのならともかく、映画を観ただけで、
だいたいが、このサシャ・バロン・コーエンみたいな連中に怒る方が大人げないだろう。


作品そのものへの評価としては、予想を超えた悪趣味さに度肝を抜かれた、というところ。
笑えるところは徹底的に笑えたが、シャレにならない部分には苦笑ですますのも難しい。
目を覆いたくなるぐらい汚いモノまで見せられるのも困りものだが、
見逃すにはあまりに惜しい、とんでもない問題作であることは間違いない。
スクリーンでももう1回観るべきか、それとも…。いま思案中なのである。