TOHOシネマズなんばで「ホリデイ」

mike-cat2007-03-29



〝人生に一度だけ、誰にでも運命の休暇がある〟
「ハート・オブ・ウーマン」「恋愛適齢期」の、
ナンシー・メイヤーズの監督・脚本による、
甘い、甘い、ロマンティック・コメディ。
主演にケイト・ウィンスレット
「タイタニック」「エターナル・サンシャイン」)、
キャメロン・ディアス
「チャーリーズ・エンジェル」「メリーに首ったけ」)。
共演にジュード・ロウ「ガタカ」「イクジステンズ」
ジャック・ブラック「スクール・オブ・ロック」「愛しのローズマリー」)。



ロンドン近郊のサリー州に住む、新聞社勤務のアイリス=ウィンスレット、
LA在住の予告編作成プロダクション社長のアマンダ=ディアス。
恋人の裏切りで、傷心のクリスマスを迎えることになった2人は、
ネットで見つけた〝ホーム・エクスチェンジ〟で意気投合、
10000キロ離れたお互いの家で休暇を過ごすことになった。
そして、イヤな思い出を振り捨てるため、向かったその地には、新しい出会いが…


悪くいえば妄想、よくいってもおとぎ話、の世界である。
何せ、傷心旅行で出向いた先に、絶品の2枚目との出会いがあったり、
ゴージャスな家とチャーミングで楽しい男がいたり、とまさに夢の世界。
〝ホーム・エクスチェンジ〟という設定は斬新だが、
ロマンティック・コメディとしての展開は、けっこう定型パターンにはまっている。
正直、このテのハッピーなお話が嫌いな人には、お勧めはできない。


だが、クリスマス休暇の前に観る〝よくある〟ロマンティック・コメディとして、
きっちり割り切って観れば、ずいぶんとイメージが変わってくることに気づく。
ロンドン郊外の雰囲気抜群のコテージにLAの豪邸という、舞台設定も、
何の努力もなく手に入る、ジュード・ロウジャック・ブラック(3枚目だけど、なかなかいい)も、
あくまでクリスマスの夢、と思えば、別に〝出来過ぎ〟と鼻白むこともない。
むしろ、その音楽や映像、ちょっとしたエピソードに漂う、上質なセンスが際立ってくる。


曲を思い浮かべながら脚本を書いた、というナンシー・メイヤーズのセンスに、
音楽担当のハンス・ジマー「パイレーツ・オブ・カリビアン」「バックドラフト」「ドライビング・ミス・デイジー」)のスコア。
映画音楽の作曲家という設定のマイルズ=ブラックを存分に生かし、
映画と音楽の関係を強調するあたりも、確信犯的なやり口ながら、強い印象を残す。


そうしたこだわりというか、一種の美学のようなものは、
老いた脚本家を演じるイーライ・ウォラック「ゴッドファーザーPART III」「荒野の七人」)がらみのエピソードでもよくわかる。
古きよき時代(これも賛否両論あろうが…)のハリウッドへのノスタルジーを交えつつ、
ビジネス一辺倒の大手スタジオ批判に、没個性な作品を偏重するシネコン批判などを繰り広げる。
多少独善的には過ぎるが、このテの意見をきっちり打ち出すだけでも評価に値するだろう。


ケイト・ウィンスレット演じるアイリスのキュートさも、何ともいえない魅力のひとつだ。
口ばかり調子よく、自分を利用しようとするジャスパーに対し、未練を振り切れないアイリス。
イングランドの天候を思わせるように、どんな時も、どこか泣き顔がちらつくアイリスが、
陽光あふれるLAでの出会いを通じて、明るさを取り戻していく様は、観ているだけで心地よい。
ダイエット否定派のウィンスレットらしい、ふくよかな体つきも、とても魅力的に映る。
過去との訣別を演じ上げるクライマックスの場面は、思わず喝采を上げたくなるほどだ。


一方で、キャメロン・ディアスのオーバーアクトは確かに気になる。
メリーに首ったけ」とかの頃と比べると、歳取ったな、と実感させられることも多い。
だが、キャメロンはやっぱり、いい意味でも悪い意味でもスターだ。
キャメロンならではの存在感が、涙を忘れた強気な女性、という設定と、
カラ元気にも思える数々のアマンダの素振りを、うまいこと再現しているような気はする。
ジュード・ロウとの絡みは安直そのものだが、あくまで夢だから、それはそれで納得がいく。


豪華な脇役陣も見逃せない。
アイリスをたぶらかす、悪い男ジャスパー役には、
ルーファス・シーウェル「パリ、ジュテーム」「トリスタンとイゾルデ」)、
浮気の末にアマンダに追い出されるイーサン役には、
エドワード・バーンズ「コンフィデンス」「彼女は最高」)。
ほかにも、ちょい役でリンジー・ローハン「フォーチュン・クッッキー」)にジェームズ・フランコ「スパイダーマン」)。
ボーナス(?)的な感じで、名作映画の〝あの人〟も登場したりして、
やややり過ぎ感も漂わせるが、豪華さが作品全体のまとまりを疎外するようなことはない。


というわけで、前述の通り、クリスマスの豪華な夢、を観たような、そんな作品。
そんなうまい話があるか! なんて現実的に考えてしまうより、
肩の力を抜いて、気楽な気持ちで楽しい気分に乗るのが大事だ。
この作品をこの時期に公開する、配給会社のセンスは疑いたくなるが、
それはそれとして、観るだけの価値は十分あるはずだ、と思う、心地よい135分だった。