道頓堀松竹角座で「ステップ・アップ」

mike-cat2007-03-19



〝この一瞬に夢をかけて〟
ダンス映画史上歴代5位の興行収入を記録した、話題作。
〝心揺さぶる音楽のストリートダンスと、クラシックバレエの融合。
 これまでにない新しいスタイルのダンスで魅せる青春映画が誕生!〟
音楽とダンス、そしてドキドキするような青春が、そこにはある。
主演はペプシなどのCMで注目を浴び、「コーチ・カーター」にも出演したチャニング・テイタムと、
ジャネット・ジャクソンのバックダンサーとして活躍したジェナ・ディーワン
初監督を務めたのは「チアーズ!」「ブギーナイツ」の振付師、アン・フレッチャー。


舞台はボルティモア
低所得地区に生まれ、養育費目当ての里親に育てられたタイラー=テイタムは、
何の目標もないまま、クラブでのダンスにケチな悪事、そして喧嘩に明け暮れる毎日。
ある日、酔って侵入したメリーランド芸術学院で舞台を破壊し、
逮捕されたテイタムは、裁判の結果、同学院での社会奉仕を言い渡される。
反省もそこそこに清掃に取りかかったタイラーは、偶然見かけたひとりの少女に魅了される。
卒業後のキャリアをかけ、卒業制作のダンスを作成中のノーラ=ディーワンは、
本来のパートナーの負傷で、新しい練習パートナーを探していたところだった−


ダンス映画歴代5位、というのがなかなかに渋い。
だが、その上位4本を並べてみると、
スターピース「サタデー・ナイト・フィーバー」「フラッシュ・ダンス」
ジュリア・スタイルズ「セイブ・ザ・ラスト・ダンス」「フットルース」
となると、5位のこの作品もそうそう侮れない、ということになる。
個人的に、ダンス映画のベストは、「ムーラン・ルージュ」バズ・ラーマンの初監督作品、
「ダンシング・ヒーロー」(傑作!!)なのだが、
「ダーティー・ダンシング」など、数々の傑作を生み出したジャンルだけに期待は「大」だった。


で、結論から言うと、この作品、なかなかだ。
ストーリーはとにかくベタ。こと展開に関しては、斬新さは欠片ほどもない。
過去の映画のエッセンスをちょいちょいとつまみ食いした、という印象が強い。
だが、そのつまみ食いのセンスは、意外に悪くない。
鬱屈を抱えた恵まれない少年と、殻を破れない裕福な少女の組み合わせが、
お互いに新しい発見をもたらし、そしてふたりは恋に落ちる。
ストリートダンスとバレエの融合は、そのままふたりのキャラクターを反映している。
それぞれが挫折を乗り越え、自分の本当の夢に向かって、新たな一歩を踏み出す―
定番のツボをきっちり抑えた脚本、そして演出が、
単なるダンスのプロモーション・ビデオに終わりかねない内容を、きっちり映画に仕上げている。


こだわりのダンスと、一流どころを揃えた音楽はもちろん文句なし。
エンドクレジットの挿入歌が、日本版は勝手に倖田來未の曲に変わっているのは気に食わないが、
作品を通じて、目を耳を存分に楽しませてくれる高いクオリティとなっている。
加藤ローサ風の小動物系フェイスに、肉感的なボディをくっつけたジェナ・ディーワンの、
健康的なエロティックさあふれるダンスは、この映画の最大のみどころでもある。
その自由度の高さから、時に独り善がりだったりと、玉石混交のストリート・ダンスも、
チャニング・テイタムの純朴そうな表情がそうさせるのか、あまり粗さを感じない。


ふたりの友人を演じたミュージシャンのマリオと、ドリュー・シドラ、
芸術学院の校長を演じたレイチェル・グリフィス(「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」「シャンプー台の向こうに」)も、
いい味わいでふたりのロマンスをもり立てていて、思わず胸がグッと詰まる。
美しいハーバー・プレイスだけではない、ボルティモアの様々な姿も楽しい作品。
ダンス映画に新たなマスターピース、とはいかないが、
いわゆる青春映画好きには、十分満足できる作品ではないかと思う。