TOHOシネマズなんばで「パフューム ある人殺しの物語」

mike-cat2007-03-06



〝それは、昨日まで人だったもの。〟
禁断の官能を描いた問題作にして大ベストセラー、
パトリック・ジュースキントの「香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)」を、
「ラン・ローラ・ラン」「ヘヴン」トム・ティクヴァが映像化。
主演は「ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男」ベン・ウィショー
脇にはダスティン・ホフマンアラン・リックマンらの名優をそろえた。


18世紀、悪臭渦巻くパリの魚市場で、ひとりの赤ん坊が産み落とされた。
育児院でグルヌイユと名づけられた少年は、ほかとはどこかが違っていた。
彼に授けられた、類い希なる才能は、何万種類もの匂いをかぎ分ける嗅覚。
さまざまな匂いに包まれたパリの街である日、
グルヌイユは、かぐわしい匂いを放つ赤毛の少女に出会った。
それは、運命の香りを追い求める、グルヌイユの長い旅の始まりだった−


数年前、原作を読んだときの衝撃は忘れられない。
変態シリアルキラーを描いた、一種のトンデモ・サスペンスでありながら、
そこに描かれる官能の世界は、まさに芳潤な香りに満ちていた。
嗅覚という、ある意味もっとも未開発な官能を描いたあの作品を、
映像化するという話を聞いた時は、正直ムリだろう、と思ったものだ。


しかし、作品を観て、新たな衝撃に打ちのめされたような気がする。
〝香りを描く〟という点だけを取っても、よくぞここまで…、という傑作だ。
トム・ティクヴァの脚本もさることながら、
ラン・ローラ・ラン」「ヘヴン」でも撮影監督を務めたフランク・グリーベの手腕が冴えている。
汚濁の街に映える少女の赤毛、一面のラベンダー畑、そして湖の蒼き情景…
画面から匂いが漂ってくるような映像に、思わず引き込まれる。
映画史に残るといっていい〝バカ〟クライマックスすら、
ここまで格調高く撮りきるとは、まさにおそるべし、と言っていいだろう。


主演のベン・ウィショーも素晴らしい。
爛々と獲物を追う視線、何ものをも逃すまいと妖しく蠢く鼻…
類い希な嗅覚の一方で、自らには体臭がない異形の男の、
喜びと哀しみが表裏一体となった生き様をこれまた官能的に演じ上げる。
自らの手にかけた赤毛の少女を、ろくに触れもせず、
ただただ嗅ぎ回すシーンは、何ともいえない禁断の世界を覗き見させてくれる。


その、プラム売りの赤毛の少女を演じるのは、
「GIRLS★GIRLS」カロリーネ・ヘルフルト
ベルリン生まれの22歳は、その愛らしいたれ目と、
いけない気持ちを覚えるほどの幼げな肢体で、運命の匂いの少女を演じる。
個人的には、日本版ポスターにも起用されているローラ役の15歳、
レイチェル・ハード=ウッドよりも、遙かに強烈な印象を残していると思う。


落ち目の調香師を演じるダスティン・ホフマンもいい。
存在感あふれる演技で、殺伐とした物語世界に独特のユーモアを添える。
近年、ショボいオッさんを演じさせたら、ホント屈指の〝凄み〟である。
グルヌイユの最後の標的、ローラの父リシを演じたアラン・リックマンも同じく。
映画のキモとなるクライマックスでのリックマンは、
この作品をギャグにしてしまうか、文芸作品にするか、の大きな分水嶺だったが、
その演技は間違いなく作品全体のクオリティをグッとレベルアップさせたと思う。


冷静に考えると、グルヌイユという人物も、その行動も、そして物語そのものも、
とんでもないの一言なのだが、不思議なぐらいに引き込まれる話である。
こん棒を片手に、次々と美女を手にかけるグルヌイユに、
気づいてみたら感情移入している自分がいたりして、困ってもしまうのだ。
あえてひとつ文句をつけるとしたら、「美女=かぐわしい香り」の図式か。
顔の美醜は体臭の良し悪しとはまったく関係ない、というのが個人的な意見。
ま、映画というビジュアル中心のメディアにする以上、しかたがないのだが…