マイクル・コナリー「ブラック・ハート〈上〉 (扶桑社ミステリー)」「ブラック・ハート〈下〉 (扶桑社ミステリー)」

mike-cat2007-02-28



いまさら読んでる、ハリー・ボッシュのシリーズ第3弾。
原題は〝THE CONCRETE BLONDE〟
コンクリート漬けの死体で発見されたブロンド美女が、
ボッシュの因縁の事件に新たな波紋を引き起こす。


犯人逮捕の際の射殺で、ボッシュの左遷につながった〝ドールメイカー事件〟。
その犯人の妻が夫の無実を訴え、LAPDとボッシュを告訴した。
だが、裁判開始と同時に警察に投げ込まれた〝ドールメイカー〟からの新たな犯行メモ。
解決と思われた事件は、ボッシュによる誤認だったのか−。
相手側のやり手弁護士を相手に、不利な情勢が続く裁判、
そしてますます混沌を極める捜査…。ボッシュは窮地を切り抜けられるのか。


今回は本来の刑事ものハードボイルドに、法廷スリラーの要素が加わる。
刻一刻と進行する裁判と捜査が、相乗的にサスペンスを盛り上げる。
ボッシュにとって、ハリウッド署への降格の原因となった、
因縁のドールメイカー事件の新展開はもちろんのこと、
かつては内務監査に突っつかれた、事件解決をめぐる不手際が、
再び訴訟の場で取り上げられ、あまつさえボッシュの個人的事情にまで踏み込んでくる。
前作「ブラック・アイス (扶桑社ミステリー)」で掘り下げられた、ボッシュの過去が、再びクローズアップされ、
これも同じく前作で登場した恋人との関係にも影響を及ぼしていく。


法廷シーンも、これだけで一本作品が作られてしまうぐらいの濃厚さ。
〝マネー〟・チャンドラーと異名を取る、やり手の原告側弁護士に対し、
ボッシュと警察サイドの弁護士の頼りない様子が、何ともスリリングな展開を作りあげる。
法廷という別のフィールドでの、ボッシュの無力感、焦燥感は何とも言い難い味わいだ。
ロドニー・キング事件、LA暴動といった、社会的要素とのからめ方も絶妙としか言いようがない。
コナリーにはそのうち、純粋な法廷スリラーも書いて欲しいぐらいだ。


もちろん、もうひとつの柱でもある、ドールメイカー事件の捜査も然り。
内通者に無能刑事、警察組織にそぐわない小役人と、警察サイドにも敵はいっぱい。
そして、次々と判明する矛盾が、捜査を混迷に陥れる。
このシリーズならでは、のひねりの効いた展開もあり、物語のクオリティは間違いなく高い。
独特の余韻を残すラストに、また次、への期待がまた広がるのだ。


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