TOHOシネマズなんばで「ボビー」

mike-cat2007-02-27



〝世界の運命が、変わるとき──。彼らは何を見たのか。〟
もちろん、オロゴンでもなければ、バレンタインでもない。
大統領選を目前に、凶弾に倒れたロバート・F・ケネディの〝ボビー〟である。
アメリカの希望が暗殺された場所で、運命の一日を過ごした22人の群像劇。
監督は「アウトサイダー」「セント・エルモス・ファイアー」で知られる、
〝懐かし〟の青春スター、エミリオ・エステヴェス


出演は、製作総指揮も兼ねるアンソニー・ホプキンス(「羊たちの沈黙」「世界最速のインディアン」)、
エステヴェスの父、マーティン・シーン(「地獄の黙示録」「ウォール街」)、
エステヴェスのかつての婚約者でもあるデミ・ムーア(「ゴースト/ニューヨークの幻」)、
その若き夫、アシュトン・カッチャー(「バタフライ・エフェクト」「守護神」)に、
ラジー賞女優シャロン・ストーン(「氷の微笑」「カジノ」=この作品ではまともな演技)、
イライジャ・ウッド(「ロード・オブ・ザ・リング」「シン・シティ」)、
リンジー・ローハン(「フォーチュン・クッキー」「ハービー/機械じかけのキューピッド」)、
ヘレン・ハント(「ツイスター」「恋愛小説家」)、フレディ・ロドリゲス(「ポセイドン」)、
ウィリアム・H・メイシー(「ファーゴ」「マグノリア」)、ニック・キャノン(「ドラムライン」)、
ヘザー・グレアム(「オースティン・パワーズ・デラックス」「ブギーナイツ」)、
ローレンス・フィッシュバーン(「マトリックス」「ミスティック・リバー」)に、
あの歌手としても知られるハリー・ベラフォンテまで、まさに豪華絢爛の陣容をそろえた。


LAのアンバサダー・ホテル、1968年6月5日。
ジョン・F・ケネディの暗殺以降、ヴェトナム戦争は泥沼化、
マーティン・ルサー・キングも暗殺されるなど、アメリカは暗い時代を迎えていた。
そんな中で、最後の希望の星と期待を集めるロバート・F・ケネディ
民主党カリフォルニア予備選当日、選挙本部のホテルは騒然としたムードに包まれた。
忙しいさなかにも不倫にいそしむ支配人、引退後もホテルに居座る元ドアマン、
突然申し渡されたダブルシフトに憤るラテン系従業員に博識なスー・シェフ、
徴兵忌避のために偽装結婚の式を挙げようとするカップルに、
アルコール漬けとなった元人気歌手、その尻に敷かれた元ドラマーの夫、
ラブ&ピースなドラッグの売人に、プラハの春を迎えていたチェコスロヴァキアのリポーター…
さまざまな人生模様が交差する中、あの悲劇は起こった−


見応えについては、かなりのレベル、といっていいだろう。
ニュースフィルムと巧みに組み合わされた構成も絶妙。
豪華スターを大量動員した映画には、それだけで手いっぱいになるものも多いが、
それぞれのドラマもうまく生かされているし、お互いのバランスも悪くない。
ロバート・アルトマン「プレタポルテ」「ゴスフォード・パーク」「ショート・カッツ」)や、
ポール・トーマス・アンダーソン「マグノリア」)とまではいかないが、群像劇の面白さは十分に出ている。


無失点記録を続けるドン・ドライスデールが登板するドジャース戦チケットをふいにした、
ラテン系従業員=ロドリゲスと黒人スー・シェフ=フィッシュバーンのエピソードを始め、
人種差別的なやり口をめぐって厨房マネジャー=スレーターを解雇するものの、
電話交換嬢=グレアムと真っ昼間から不倫にいそしみ、
妻の美容師=ストーンとの関係は破綻しているホテル支配人=メイシー、
偽装結婚のために、夢をあきらめる花嫁=ローハンに負い目を感じる花婿=ウッド、
一日中ホテルにたむろし、かつての夢を語り合う元ドアマン=ホプキンス…
どこか憂いをたたえた、それぞれの人生が有機的に交差し、悲劇を待つ。
それぞれの俳優たちの力量ももちろんだが、
近年、脚本や監督業に活躍の場をシフトしたエステヴェス、なかなかの腕前のようだ。


ただ、この映画の持つメッセージ性には疑問も残る。
アメリカの暗い時代を象徴する出来事が次々と映し出される序盤から、
予備選勝利の歓喜に沸くボールルーム、そして銃声の響き渡る厨房まで。
暴力の虚しさを訴えるRFKの演説が、〝虚しく〟響き渡る中、映画は幕を閉じる。
伝わってくるのは、夢を失って久しいアメリカの絶望か、
それとも、ボビーがかつてもたらした希望の再現か−
監督はボビーの死とともに失った、アメリカの夢と品格の再生を訴えているというが、
その部分に関しては、絶望感が強いせいか、ちょっと微妙な感じがしてならない。
「いまこそ、ボビーを思い出すべき」。
だが、この映画を観てしまうと、どこか虚しさの方が勝ってしまう気がする。


昨年オスカーを手にした「クラッシュ」の記憶が強いせいか、
アカデミー賞では鼻にもかけられなかったようだが、
ゴールデングローブ賞ではドラマ部門作品賞でノミネートされるなど、
それなりの評価は受けている作品とのことで、その分も保証付き。
少なくとも、2人3人好きな俳優がいたら、間違いなくお勧めだ。